つづきです










「今日も来てるね」


まっさんの言葉に、思わずドキッとした。

え、見ているのを見られてた?!

って、オレは単に窓の外を見ているだけで、別にやましい事をしている訳じゃないけど…


…でも、何となく居心地が悪い。


言い訳でもしようかと顔を上げると、オレの目の前に、ドサッと担当番組宛のメールが置かれた。

その一番上には、ハガキが乗せられている。


イマドキのこのご時世。

番組コーナーへの投稿は、ほぼメールだ。

それでも少数派というのはやっぱり存在していて。

ここのような、規模の小さなローカル局には、高齢者からの感想なども時折寄せられるため、番組への投稿はメールに限らずハガキでも受け付けていた。


オレは、見慣れた文字で綴られたハガキを手に取った。


最初はね?

この、毎回メールではなくハガキで投稿してくる"SATO"さんのこと、おじいちゃんだと思ったのよ。


文字の感じとか、文章とか…すごく落ち着いていてさ。覇気っていうか、若者らしさを感じないんだもん。笑


でも、どうもそうではないらしい。


ハガキの隅っこに、独り言や好きなアニメのセリフとか。お気に入りの曲の歌詞の一部が書いてあったりしてね?

それが、どんぴしゃオレと合ってるの。

だから…

多分、SATOさんはオレと同世代なのだろう。

そうすると、なぜメールで送ってこないのかと不思議にも思ったが、その理由に納得した。


天気予報やローカルニュースの他にも、各曜日ごとにコーナーを設けてるこの番組。そこに送られてくるメールは回数を重ねるごとに増え、地方のラジオ局の番組としては予想外に大量になっていた。


当然、採用されるための競争率も高くなる。


メールで送られてくる投稿は、応募フォームに沿って送られてくるため、ネタ以外の余計な情報が存在しないのだが、SATOさんが送ってくるハガキには、毎回個性的なイラストや投稿ネタ意外のひと言が添えられていた。

送られてくるハガキを選別するスタッフも、常連リスナーからものと直ぐに分かるから…

採用される確率が高くなるという結果に。


まぁ、SATOさんの思うツボなんだろう笑


オレは手に取ったハガキを裏返し、明日放送する "ニノのお悩み解決" コーナーへの投稿に目を通した。


《仕事をしなきゃならないのに、このラジオを聴いていると仕事が手につきません。どうしたら良いでしょうか?》


…だって。

相変わらずの綺麗な文字。


ちなみに、今回のハガキにはおにぎりのイラストが書かれている。(これ読まれたら、自分へのご褒美に、いくらのおにぎり食べます)とメッセージを添えて。


ふふふ♪


このコーナーは、SATOさんに限らず、本気の悩みが送られてくる事はほとんどない。だからオレも適当に返していたら、それが面白いって評判に。

オレとしては、別に面白くしたつもりはなかったんだけどね。

本気の悩み相談ならそれなりに真剣に答えるんだけど、残念ながらそうでなかったから。


まぁ、企画的には狙い通りってこと。


そこに関しては、ディレクターのまっさんが喜んでるから良いとしよう。


明日、番組内で使うメールを選び、打ち合わせを終えると、オレは別の取材に向かった。

うちみたいな弱小ラジオ局は、なんでもやらないといけない。

一応、オレはラジオパーソナリティという立ち位置なのだが、実際は普通にここの社員で。アナウンス部に所属しているものの、スポンサー回りやSNSの情報更新などの仕事も手伝っていた。


忙しいながらも、オレはそれなりに充実した毎日を過ごしていたんだ。




つづく




miu