つづきです












「ありがとう

ちょっと…この仕事、好きになってきた」


「好きじゃ…なかったの?」



真っ直ぐに向けられた、純真無垢な まぁるい瞳。

そこには、心なしか スッキリした顔のオレが…写っていた。


…好きじゃなかったよ。

仕事も。自分自身も。


でも、絡まって、ぐしゃぐしゃだった心の糸が

ゆっくりと…解けていくような気がする。

オレを覆っていた、薄暗い色のヴェールが取り払われ、今では目の前の景色がキラキラ光って見えるよう。


ねぇ、アナタって魔法使い?


オレを見つめている…優しい瞳を、見つめ返した。



「…相葉さんには、話しておかなきゃ。

あのね、あのハガキあったでしょ?間違って相葉さんのところに届いちゃったやつ。

あの写真…オレが撮ったんだ」


「え、」



オレの言葉に、相葉さんは驚いたように息を飲んだ。



「一応ね、プロのカメラマン…やってたの。

頼まれて、友だちの写真を撮ったんだけど。でも…ダメだった。全然上手く撮れなくて。出来上がった写真見て、愕然としたよね。こんなのでよくプロだとか言ってたよなって」


「いや、あの写真…すごく良く撮れてたと思うけど。キレイだったし。…って、写真の良し悪しを語れるほど、詳しくないけどさ。

でも、ふたりがすごく幸せだってのは溢れてたよ?!もうダダ漏れ!!」


「ダダ漏れって」



それはそれでどうなのよって苦笑いした。



「…相葉さんの言った通りだよ。

好きだったのよね…あの人のこと。

幸せになって欲しい気持ちも決して嘘じゃないのに、やっぱりどこかで相手のことを羨んでいた。隣で笑っているのが、何でオレじゃないんだろうって。そんなことを思いながら撮ってるんだもん。良い写真が撮れる訳ない」


「でも、それは…」



相葉さんは、何か言いかけて…

きゅっと口を噤んだ。



「カメラも全部やめるつもりで、逃げてきたの。

でも、オレって撮る以外のスキルが皆無でさ。笑っちゃうよね。結局、スタジオの仕事をやってる」


「ニノ…」



あぁ、ごめんね。こんな昔話なんてしちゃって。

相葉さんに、そんな 悲しそうな顔させるつもり無かったのに。

この話はもうやめよう

そう言おうとして顔を上げると、相葉さんはくるりと背中を向けた。ガサゴソと引き出しの中で何かを探しているよう。そして…

目の前に置かれたのは、あのハガキだった。


…捨ててなかったんだ。



「…やっぱり、オレには最高に幸せそうなふたりにしか見えないよ。

技術的なこととかは分かんないけどさ。撮った人よりも、見た人がどう感じるかが大事なんじゃ無い?少なくともオレは、この写真が本当に大切に撮られたんだろうな…って感じるよ。

この…ニノの友だちだって」



そう言って相葉さんは潤くんの彼女を指差した。



…不思議、だね。


見たくなくて…

捨てて欲しいとまで思った写真が、今は素直に見ることが出来る。


そっと、ハガキを手に取った。



…ふたりとも、結構 良い顔してるじゃない。


ふふ。相葉さんの言った通り。

見る側の気持ち次第で、こんなにも違うんだね。



ありがとう。


アナタの真っ直ぐな言葉に

オレは、どれだけ 救われるんだろう。


ねぇ。

もう少しだけ、オレの話を聞いてくれる?



「オレが好きだったのは、こっち」



過去形の言葉とともに

純白のドレスに身を包んだ、新婦ではなく

白いタキシードを着ている友人を指差した。






つづく



miu