つづきです








美味そうな料理が並ぶテーブルの端っこに ちょこんと座ると、相葉さんがビールを片手に戻ってきた。


オレの顔を見て、口を開きかけ…

何か思い直したようにきゅっと唇を結び

そして ゆっくりと開いた。



「すごいよ。ニノってカメラマンだったんだね」


「…って言っても、 雇われだけどね」


「素敵な仕事だよ」


「別に。求められたものを撮るだけで…自分の表現したいものを撮る訳じゃないし」



…素敵だなんて。

正直、今の仕事には何の思い入れも無かった。

多少の技術があれば、誰でもできる仕事だから。

そう。オレじゃなくてもさ。


ため息混じりに口をつけたビールは、なんだか苦かった。



「へ?何で?」


え?

不思議そうに目を丸くした相葉さんにつられて、こちらの目も丸くなる。



「だって、家族の成長や大切な記念日を残すことのできる素敵な仕事だよね。

スマホの写真とか、スナップ写真も良いけどさ、照明や背景を整えてキレイな瞬間を残せるなんて、やっぱり特別だよ」



特別…って。

そんな風に思える相葉さんが、とても 特別で素敵だと思った。

本当に心までキレイな人なんだね。



「…そう、かな」


「そうだよ!だってさ、今日の女の子だってすごく楽しそうに笑ってたし、ニノの後ろで見ていたお父さんとお母さんもにこにこしてた。

写真を選んでる時とか、出来上がったアルバムを受け取る客さん…みんな、幸せそうに笑ってるでしょ?」


「うん…」


「それって、ニノがその人たちを幸せにしてるってことじゃん。

凄いね。この手がいっぱい幸せを作り出してるんだよ」



オレの手に、相葉さんの温かい手が重なる


これまでに撮影したご家族を思い浮かべた。



子どもの成長を収めた写真

誕生日や記念日に集まった家族

人生の節目を切り取ったもの


どれも…

その人にとっては、意味のある写真たち


撮影中も

撮影後も


最初こそ、カメラに見つめられ

多少緊張した様子はあっても


いつの間にか、とても嬉しそうに笑っていて…


たくさんの写真の中から アルバムやフォトフレームに納める写真を選ぶ顔は、確かに幸せそうだった。


たとえ時間が経って 記憶が薄れても

その時、その瞬間は…消えない


いつでも 思い出せる幸せ。



…オレのこの手が

誰かの幸せを作り出してるのかな…



今までは、他人事でしかなかった幸せが


初めて…

自分の幸せでもあるかもしれない と

そう 感じはじめていた。







つづく






miu