夕方に入っていた、もう一組の撮影も無事に終わり、機材の手入れをしたらちょうど8時。
「お先に失礼します」
店長に声をかけて、バタバタとスタジオを出た。
マンションまでは電車で二駅。30分もあれば着くだろう。
自然と早まる足取り。
駅の階段を駆け上がり、いつもより早い電車に飛び乗ると、ドアにもたれ その揺れに身体を預けた。
…大丈夫。
相葉さんは潤くんとは全然違うもん。そういう"好き"にはならないよ。うん。
カタン、コトン
顔を上げると、窓の外を夜景が流れていく。
そこに映り込んだ自分の顔が…
どこか 見覚えがある気がして、少しだけ…胸の奥がざわついた。
帰り道、マンション近くのコンビニでビールを買い込んだ。あの時の相葉さんほど大量ではないけど。笑
だってそんなには持てないし、きっと相葉さんもたくさん用意してそうだから。
もし足りなければ一緒に買いに行けば良いしね。
マンションに着き、入り口近くの郵便受けを開けると、そこには一枚の紙が。
"お疲れさま!今日はオレんち集合ね^_^by相葉"
思わず、小学生かよってツッコミ入れそうになったけど、考えてみればまだ連絡先を交換してない。
そっか。じゃあ、今日は相葉さんと連絡先を交換しよう。なんならオレのスリーサイズでもお伝えしましょうか?
ふふ。
受け取ったメモを握りしめて、三階までの階段を一気に駆け上がった。
サッとシャワーを浴びて、髪を乾かすのもそこそこに、ビールを手に下げ部屋を出る。
一段 階段を下りるたびに、心がポカポカしてきて。相葉さんの部屋の前までくると、ポカポカはドキドキに変わっていた。
ふぅ、と深呼吸してチャイムを押すと、間髪いれずにドアが開いた。
「いらっしゃい」
数時間ぶりの、相葉さんの笑顔。
スーツ姿もカッコ良かったけど、ラフなTシャツの袖からは、意外と逞しい腕が伸びていて…
って、どこ見てんのよ。
友だちはそんなの気にしないから。
頭をぶんぶんと振って、顔を上げた。
「あの、お言葉に甘えて…来ちゃった」
「うんうん、甘えちゃって!」
「ふふ、おじゃまします」
持っていたビールを相葉さんに手渡すと、部屋の中に招き入れられた。
当たり前だけど間取りは同じ。
片付いているけど それなりに生活感があって、何となく落ち着く部屋だった。
テーブルを見れば、すごい料理が。え、何これ。相葉さんが作ったの?
驚いて相葉さんを見れば、でしょ?相葉雅紀お買い得だよって見事なドヤ顔。
いやいや、オレは一体、何をオススメされてるのよ。笑
確かに、こんなにカッコよくて優しくて。
さらに料理もできちゃうなんてさ。絶対、周りの女の子が放っておかないパターンだよね。
…なんて、よく考えたらオレたち出会ってからまだ一ヶ月くらいしか経ってない訳で。
今まで話題に出なかったから、相葉さんに彼女がいない気になってたけど。いて当たり前。いない方が不思議。
そっか。そうだよね。
…また、繰り返してしまわないように
オレは、友だちとしての距離感を
必死に思い出そうとしていた。