あれから…
なるべく家にいたくなくて、仕事が終わった後もひとりでふらふらと飲みに行ったりしていた。
まぁ、元々自分でご飯とか作るタイプじゃないから、晩メシがてらだけどね。
よく考えたら、それも今まで通り。
…でも、ビールを飲みながらも出てくるのは、ため息ばかりだった。
はぁ、とまた一つ 吐き出した。
別にさ?今更、友だちがひとり減ったくらいどうって事ないじゃない。元々ひとりが好きなんだし。
そう思うのに、あの…
ドアの向こうに消えた、相葉さんの悲しそうな顔が目の前に浮かんで、ズキリと胸が痛くなる。
本当にいい人で
オレとは違う、普通の…人
だからさ、やっぱり今のうちに離れた方がいいんだよ。
そう…
まるで自分に言い聞かせるように、呟いていた。
「え、休みなんですか?」
出勤したら、アシスタントの人が急に休みだと聞いて、ちょっと不安になった。
だって、今日の撮影は2歳の女の子。
オレさ、今まで人物写真もたくさん撮ってきたけど…小さい子の扱いだけは慣れないんだよな。
言うこと聞かないし、すぐ泣くし。
いつもはアシスタントさんが上手に子どもの気を引いてくれたりして何とか撮れていた。
とはいえ、そんな理由で予定を変更する訳にはいかない。
どうかご機嫌で撮らせてくれますように。
…って思っていたのに、可愛いくメイクした顔で睨んできて。めちゃめちゃ不機嫌じゃん。
名前を呼んだり、アシスタントがやっているように手に持ったおもちゃで笑わせようとしたけど全然効果なし。それどころか不機嫌を通り越して泣きそうになっている。
あぁ、もう。オレが泣きたいよ。
困り果てているオレの後ろから、スッと長い腕が出てきた。
え、何?
チリンチリン♪と、スタジオに響く澄んだ高い音。
振り返れば…ふわふわのぬいぐるみを持った相葉さんが、満面の笑みで立っていた。
音に驚いたのか、女の子は相葉さんとぬいぐるみを交互に見つめている。
よっしゃ!と謎の気合を入れた相葉さんが、何かを取りだしてオレの頭に取り付けた。
うわ、嫌な予感。オレどうなってるの?
そのうちにジーっという機械音が聞こえてきて、頭の上でクルクルと何かが動いている気配を感じた。
と、同時にキャハハっという笑い声が。
見れば、さっきまで泣きそうにしていた女の子が、楽しそうに笑っていた。
ねぇ、相葉さんどんな魔法を使ったの?
…でも今はそれよりも、ぱあっと太陽みたいな笑顔を咲かせた女の子の写真を撮るほうが先。
オレは、一番 輝く瞬間を見逃さないように、シャッターを切っていた。
つづく
miu