今日も、相葉さんはよくしゃべる。
ビール片手に実家の話を始めたかと思ったら、次は身長体重足のサイズ。
ねえ、その情報、どうしたら良いのよ。笑
まぁスタイルが良いのは見たら分かるけどさ。
そうね、いつか靴とかシャツとかプレゼントする機会があったら参考にさせていただきます。
ふふふって笑っていると、相葉さんの視線がオレから逸れ、テレビに向けられた。
…?
じ…っと、見入っている視線の先を追うようにテレビを見たけれど、知らない人。この女優さん好きなのかな。
そのままスルーして、手の中のビールを口元に近づけた。
「この人綺麗だよね。ニノの元カノに似てない?」
…元カノって?
人間ってさ、想像もしていなかった言葉には反応できないもんだね。
無言で…眉間にシワを寄せ、考え込んでいたオレは、さぞかし怪訝な顔をしていたと思う。
「あ…ハガキの、写真の…」
「…あぁ、違うよ」
言葉の意味をようやく理解したけれど
それだけ言うのが精一杯だった。
しまった、と言う表情の相葉さんに
あの結婚報告のハガキに写っていた女性の方を、オレの元カノだと勘違いをしていることに気づいたのだけど…
オレは、その事にショックを受けている自分に驚いていた。
泣きたくなんてないのに、ジワリと涙が込み上げてくる。
何でよ。こんなの…
ダメだ。
とりあえず、ひとりになりたい。
相葉さんから顔を背けるようにして立ち上がると、トイレに逃げ込んだ。
手のひらで涙を拭い、ドアに寄りかかる。
……あぁ。
そうか。
新郎と新婦がふたり並んでいる写真を見て、女性の方を"元カノ"だと思うのは、普通の感覚。
相葉さんは普通の人なの。
…違うのは、オレ。
相葉さんの側が とても居心地よかったからさ
自分が普通じゃないこと忘れてたよ。
自分自身、男しか愛せないのだということを受け入れるには時間がかかった。
周りに理解してもらおうとも思ってない。
…相葉さんだって、きっと。
はぁ。小さく震えながら息を吐き出して…
ずっと、ここでこうしている訳にもいかず
ノロノロと部屋に戻った。
何かを言いかけた相葉さんの言葉を遮るようにして口を開く。
「…なんか酔っちゃったかも。そろそろ寝ようかな」
「あ…うん、じゃあオレ帰るよ」
そうだ、これ と
洗っておいた相葉さんのシャツを差し出した。
相葉さんの気配がこの部屋に残っていると、また泣いてしまいそうで。
全てをドアの外に追いやると…
自分の手で
ふたりの距離を 一番最初に出会った時まで戻した。