ラスト…









更に 月日は流れた。


庭のハナミズキも年々つける花の数が少なく小さくなり、とうとう今年は一輪だけだった。


シワの深くなった目尻
目立つようになった白髪を耳にかけ、呟いた。


「くふふ…お互い歳とったよね」


…オレがニノにあげた分の寿命が、どれほどのものだったのか。

70歳を目前にしたオレ。
平均寿命にはまだかなりあるが、最近では酷く胸が苦しくなることがある。

恐らくは…
この体を蝕んでいる病があるんだろう。

でも、決して病院に行こうとは思わなかった。


ここで
この場所で

いつか訪れる、最期の時を待ち続けていた自分にとって、やっと願いの叶う日が近づいていることに、オレは幸せを感じていた。




……っ、あ…


締めつけられる胸

これまでより激しい痛みに
呼吸が困難になる

支えきれない体が、大きく傾き床に倒れた。


はっ
はあっ
はあっ…


薄れる意識の中、それでも何とか縁側まで と 必死に這って…
胸のポケットから、琥珀色の石を取り出した。


震える手で、覗き込むと

ピシッ… と
ひと筋 ヒビが走った


縁側の窓を開け、庭に目を向ける









あぁ。







「おはよう…」




最期の一輪が閉じた、ハナミズキの下


愛しい君は

オレと同じ…
白髪の混じった髪をしていた。



「おはよ、相葉さん」

「よく眠れた?」

「…うん」

「…待ってたよ」

「………うん」

「ニノ…」


重く…自由の効かない手を伸ばす。

ニノが一歩近づく度に
オレの体が少しずつ軽くなって…



やがて

さっきまでの痛みは 嘘のように消えていた。



「もう、遅いよ」

「ふふ…ごめんね」


照れたように笑った君

近づいた唇が、そっと触れた。


初めての キス…


目の前のニノを ぎゅっ と抱きしめると

温かくて柔らかくて
良い匂いがした。


「もう そろそろ…
おばあさんに会いに行っても…怒られないよね?」


一瞬…瞳が揺れる。

小さく コクンと頷ずくと
その瞳は日を受け キラキラと輝いていた。


光の粒が 空に昇っていく


「…あ」




見上げれば 綺麗な虹が…


もう二度と離れないように
しっかりとニノの手を握る。


「行こうか」


オレたちは


もう一度

同じ " 時 " を 歩き始めた。





終わり




miu