続きです






シン…と 静まり返った部屋は空っぽで
さっきまであったはずの、ニノの気配はもう無かった。


「信じるって…そんなの」

手の中の石を床に投げつけようと
振り上げた腕が頭上で止まる。

有り得ない そう思いながら

それでも…
何かに縋りたかったのかもしれない。


オレは手の中の石を ぎゅっと握り締め
胸に抱いた。


「……ねぇ、ニノ…いるの?」


ぼそりと呟いてみる。

勿論、返事なんてないけれど
何故だろう…

無機質なはずの石が

仄かな温もりを放ち
微かな鼓動を感じたような気がした。




(好きよ 相葉さん)

オレに向けられたその瞳が
静かに微笑んでいた。












あれから…

静かに花開くハナミズキを
何度見ただろう。


ニノの大切な場所
オレにとっても…

ここを守りたいと願い
がむしゃらに働き、金を貯めた。

必死に働いて、やっと この土地を手に入れたのは…

ニノが眠りについてから
十数年後だった。


ニノとの思い出が詰まったアパートを取り壊すのは寂しかったが、あの時ニノがオレに見せてくれた風景に似た、木造の小さな家を建て、ハナミズキの見える場所に縁側を作った。

日当たりの良い縁側に腰を下ろし
琥珀色の石を透せば

セピア色の…
懐かしい風景が、今も目の前に広がっていた。


「おはよ、ニノ。今日もいい天気だね」


日課となった挨拶。

行ってきますのキスをした オレは

ハナミズキの見える場所に
そっと ニノを置いた。




つづく


miu