つづきです










青にも似た、深い翠に囲まれた空間

鬱蒼と茂った木々の落とす影を踏み、玄関の呼び鈴に触れる。
一呼吸おいて…鳴らした。

この家の主人は、この間と同じように
まるで待っていたかのように姿を現した。


「あの…」

「おれに話があるんじゃないか?」

「…………」


全てを見透かすような 澄んだ瞳に、あぶら汗が滲む。

手の中の箱が 
カサッと音を立てた。


後に続くよう促され、部屋へと案内される。
磨かれた木の廊下は、ギシギシと音を立てるのに、先を歩く大野さんの足音は全くしない。

勧められた座布団を断り、オレは畳の上に正座した。

肩に重くのし掛かる 物音一つしない静寂。
言葉を発するのが躊躇われるほどの…

強く注がれる大野さんの視線に、次第に居心地の悪さを感じ始めていた。


「で、祓う気になった?」


大野さんの言の葉が、合図のように静寂を破る。


「あの…霊って、祓われたら必ず幸せになれるんですか?」

「…へ?」

「絶対…なんですか?」


なんとか気持ちを落ち着けようと
オレは、深く 息を吐き出した。


「……それは何を幸せとするかによるな。
本人が 無に還ることを望まなければ、成仏はさせられない。祓うには二通りあって、成仏させることと、もう一つ。
それは即ち…滅すること、だ」

「そんな、こと」


膝の上で握りしめていた手が震える。食い込んだ爪が、鈍い痛みを放っていた。


「そして、あんた…やっぱり憑かれてるよ。
霊に執着し始めた時点でアウトだ。例え向こうにその気があろうが無かろうが、な。
ただそこにあるだけの存在なら放っておくが…
もう、手遅れだ」


…オレは、目の前が真っ暗になった。




つづく




miu