つづきです
ニノちゃんサイド…
夜中に何度となく寝返りを打つ姿に
眠れていないのだ、と 気づいていた。
時折深く吐き出す ため息は重く
深い闇の中、澱のように積もっていく。
オレを抱きしめ 泣いていた相葉さん
何があったのか…
何度聞いても、結局は答えてはくれなかった。
…そうだよね。
オレみたいな幽霊ごとき 何ができるんだよ。
聞いたところで何もできない。それがわかっているから相葉さんは何も言わないんだ。
「行ってらっしゃい…」
泣きそうになるのを堪えて、相葉さんの背中を見送る。
自分の 薄っすら透けた手へと視線を落とすと
無力感に 打ちひしがれた。
いつもの場所
いつも…
ばあちゃんが座っていた、縁側のあった位置に腰を下ろした。
「あれ? また…」
見れば、少しばかり丈の足りないカーテンが 開いたままになっている。
相葉さんが泣いた 夜
あれ以来…
相葉さんはこの部屋のカーテンを閉め忘れることが多くなったように思えた。
…わざと?
いや、そんなこと…
まさかね、と打ち消し 顔を上げた。
瞳に映るのは、すっかり変わってしまった風景
ミシミシと軋む廊下も
建て付けの悪い扉も
背の高さを刻んだ柱も
今は もう…何もない
それでも四角く切り取られたフレームの向こう側には あの頃の…
昔の名残りが 一つだけ残っていた。
『この樹はね、和と同い年なんだよ』
誕生を祝って植えられた記念樹。
さわさわと風に揺れるハナミズキが
ふふ と 笑っているようだった。
つづく
miu