つづきです








「…どうしたの?」

「ニノ、ずっと一緒にいよう」

「ふふっ、なにそれ。プロポーズみたい。
そうね…あなたがこのアパートにいる間は」

「オレ、引っ越さないから。だから」

「…………」


少しばかりの沈黙の後

あなた、泣き虫なんだね  と

こぼれ落ちた涙を、すっ と指で掬われ


ニノを抱きしめていたはずの手は
いつの間にか、オレを抱きしめる手に変わっていた。


〜♪…♪  …♪〜

オレの唇が 知らない歌を奏でる…

途切れ途切れの…優しいメロディに
心地良い眠気に誘われたオレは

そのまま、静かに 目を閉じた。





ん…


夜明け前の、闇に溶けた部屋。

覚醒しきれていない意識は混濁し、夢と現との境い目を曖昧にしていた。


縁側に座る、小さな後ろ姿に
懐かしさがこみ上げる

ばあちゃん…

今年もハナミズキが咲いたよ


手を伸ばそうとすると、シーンが切り替わった。

突如…
言いようのない寂寥に襲われる。


悲しくて
耳を塞いで
それでも…どうにもならなくて

小さく小さく体を丸め

風に吹かれた塵のように、空高く舞って
そのまま消えてしまいたいと願うのは


…夢じゃない。

記憶、なんだろう。



少しずつ白み始めた空に…
次第に平静を取り戻す。


ニノにとって一番良いのは
ずっと…オレと一緒に居ること?

それとも。


浄化させ

消えてしまいたくなるほどの悲しい記憶から 
解放してあげること、なんだろうか。





つづく




miu