つづきです








「お疲れ様でしたっ!」

一通りの仕事を終え、事務所を飛び出した。


過去。

あの場所に何か…
ニノにとっての"何か"があることは間違いないだろうから。

オレの行く場所は決まっていた。





アパートとは反対側にある
小さな駅前の商店街

オレとニノとを出逢わせてくれた
不動産屋のドアを開けた。


「いらっしゃいま…あ!」

「どうも」


オレを見て、顔色を変える。


「あの…聞きたいことがあるんですけど」

「…やっぱり、何かありましたか?」


不動産屋は、申し訳なさそうな顔をしてオレを応接コーナーに案内した。


「あの部屋では殺人も自殺も…自然死すら起きたことはないんですよ。築10年くらいですし。
…でも、なぜか人の気配を感じるとか、変な物音がして気味が悪いとか、すぐに入居者が出て行ってしまうんです」

「…誰も死んでないんですか?」

「ええ、それは間違いないです!
いや、それがあったら、私どもでも事故物件の表示をするんですけどね…」


慌てて言い訳めいた言葉を付け加える。
実際、不動産屋のおじさんは多少霊感があるらしく、あの部屋でニノの気配を感じて怖くなったらしい。


…じゃあ、どうして…


黙ってしまったオレ。

それを怒っていると勘違いしたのだろうか?真っ青な顔で、いきなりテーブルに頭を擦り付けた。


「…すいません! 訴えないでください!」

「…へ?  あ、全然!!そう言うんじゃないんです。むしろ、居心地良いんで!」

「………出ないんですか?」

「いや、出ますよ」


不動産屋は呆気にとられたようにポカーンと口を開け、固まっている。

オレはぺこりと頭を下げ
少し建て付けの悪いドアを開けた。



肩透かしを食らった気分だった。

てっきり…
ニノはあの部屋に住んでいて、そこで何かあったんだと思っていたから。

いきなり手がかりを失ってしまったオレは
途方に暮れて 空を見上げた。






つづく





miu