つづきです










スマホの案内を頼りに、歩道を走る。
交差点を曲がると、少し奥まった場所にその店はあった。


「ほら、あったよ!ここじゃない?」


勢いでドアを開けると、こじんまりとした店内は焼肉屋の割にはお洒落で、一瞬…怯んでしまった。


「いらっしゃいませ。一名様ですか?」
「二人…あ、そう!一人!」
(…………)
「こちらの席にどうぞ」


席に案内され 腰を下ろすと、整った顔立ちのイケメンに温かいおしぼりを手渡された。


「…あの、お客さん、どこかで会ったことあります?」
「へ?あの…オレ引っ越してきたばっかりだから…多分会ったことないと思います」
「…そうですよね。失礼しました」



一度でも会ったことがあれば、絶対忘れない顔だ。そのイケメンは、どうやら店主のようで、他の従業員に指示を出していた。


(………)
「ニノ? どうかした?」
(ううん、別に)
「ほら、食べたいもの言って?」
(じゃあ…)


肉をのせた皿が 次々とテーブルを埋めていく。網の上に肉をダイブさせると、炎が上がった。香ばしい匂いと、ジュージューという食欲をそそる音にテンションが上がる。

冷えたジョッキに注がれたビールを喉に流し込むと、弾けた泡が キュッと腹に滲みた。

(わ、ビール美味っ!)

頭の中に響くニノ声に、嬉しくなる。
ちゃんと味覚も感じているようだ。

「美味いねー!」
(うん、あ!肉ももう良いんじゃない?)
「いただきまーす!」
(いただきます)
「美味っ!!」
(美味いなー!)


「これ、サービスです」

ぼとっ
突然声をかけられ、びっくりして箸から肉が落ちた。
テーブルの上には、頼んでいない2杯目のビールが置かれている。


「え?あの…」

目を白黒させているオレを見て、楽しそうに笑った。


「良い飲みっぷりなんで。笑
…良かったら、また来てくださいよ」


会ったことはない

それなのに…
どことなく、懐かしい気がするのは気のせいだろうか?


「えーと、あの…いただきます」


よく分からない感情を持て余したオレは
とりあえず…ビールを一気に飲み干した。



つづく



miu