つづきです





オレは幽霊になったこともないし、そのメカニズム?も分からない。

でも、何となく 地縛霊とか浮遊霊って単語は聞いたことがあって。

"この部屋にずっと前からいる " というニノは、特定の場所に想いを残している 地縛霊 なんだろう。
だとしたら、オレの身体に入れたとしても別の場所に連れていけるのか分からないけど…
それでもやってみる価値はある。
ダメなら、ちょっと高いお肉を買ってきて、部屋で肉を焼こう。うん、そうしよう。

不思議そうな顔をしたニノが、手を広げたオレを見つめていた。


「…なんでアナタ、そんなことしてくれるの?」
「え、だって…友達でしょ?」


…驚いたように目を見開くと、つぎの瞬間耳まで赤くなった。
向こう側が透けてはいるが、それでも分かりやすいほどに照れている。

絶対いいヤツだよ。
それに…すごく可愛い。

触れる事の出来ないニノの手に、そっと自分の手を重ねると、温かい何かを感じた。

少しずつ、重ねる面積を増やしていく…

近づく顔
キス…しそうな距離にドキッとした。

一回り小さなニノが、オレの中にすっぽりと収まる。
目を閉じて ニノに語りかけた。


(どう? いる?)
(うん…多分…)


直接、頭の中に響く ニノの声。

ほっぺたをムニッと摘んでみると、オレよりも先に(イテッ)と少し高い声がした。


「よし、行こう!案内して?」


財布と携帯を手に、オレはニノの言っていた三丁目の焼肉屋を目指した。

まだ、越してきて2週間ほど。
土地勘なんてない。

でも、かつて知った場所を目指すように、オレの足は前へと進んで行った。





「ニノ…」
(ん?)
「焼肉屋、どこ?」
(…昔はこの辺にあったんだけどなぁ)


目指した場所には、今はマンションが建っていた。飲食店の入っているビルでもない。

(ごめん…かなり前だったかも)

…そっか。
ニノの…生きていた頃の記憶は止まってしまっているから。


「ねぇ、店の名前は?」
(え? えーと、確か…)


ニノの言った店名をスマホで検索してみる。すると、同じ名前の店がヒットした。しかも近くだ。


「ここから50メートルくらいじゃない?行ってみようよ!」


… ニノの返事を待たず、オレは走り出していた。





つづく




miu