つづきです







決して広くは無い部屋
だけど、一人で暮らすには充分だ。

荷物の全てが詰まったリュックを床に置き、ぐるりと辺りを見渡す。

明るい光が差し込む窓に、オレは引き寄せられるように近づいた。


あれは…?

視線の先
2階のベランダより 少し低い木に、青々とした葉っぱが茂っている。
その中に 一輪…白い
いや、薄黄色の花が咲いていた。

…何の花だろう?  キレイだな。

今まで、花になんて興味を持ったことはなかったが、窓から見えるこの景色が、とても気に入った。


振り返り、同行した不動産屋を見ると、怯えたように震え、しきりに様子を伺っている。
…気のせいだろうか、顔も青白い。


「どうしたんですか?」

「…大丈夫なんですか?!」

「え、オレは…大丈夫だけど」

「なら、大丈夫です!! 私はこれで…」


…噛み合っているのだろうか?
大丈夫が行ったり来たりした会話をバッサリと切ると、逃げるようにその場を去っていく背中を、呆気にとられて見送った。


電気や水道も昼過ぎには使えるようになり、必要最低限の買い物も済ませた。
財布には3千円しか残らなかったが、来週には別のバイト代が入るから…多分なんとかなるだろう。

今日くらいは 少し贅沢 しても良いかな  と
買ってきたビールを冷蔵庫に入れる。

そして、久々に湯を張った風呂に浸かった。


チャポン…
髪から垂れた雫が落ち、水面を揺らす。

ユニットバスは少し狭く感じたけど、家賃を考えたら、風呂が付いていることが奇跡だよね。


自分の身に降り掛かった出来事を思い出しながら…

オレは、借金という肩の荷が下りた生活に
心から安堵していた。


風呂から上がり、身体の水気をザッと拭き取ると、素っ裸のままドアを開ける。
だって、部屋には誰もいない。
安いカーテンは、少しばかり丈が足りなかったけど、外から見えることはないだろう。

オレは、股間のモノをぶらぶらさせながら、小さな冷蔵庫からビールを取り出し、振り返った。


……へ?!


誰もいるはずのない部屋の中。


目の前には、背中を丸めて座っている

誰か、が 居た。



miu