大野さん出てこない…   壁|ω・)









現金の受け渡しは、会食の後だという。


時計に視線を向ける。

そろそろ最後のデザートが出された頃だろうか?タイミングを見計らい、男に電話をかけるよう指示をした。


「田中さん、困った事になりましたよ。
すぐに来てもらえませんか?」

『いや、申し訳ないが あと…あと、30分待って下さい』

「それじゃ遅いんですよ…残念ですね。じゃあ仕方ない。あの件は無かったことに」

『…待ってくれ!! …すぐ行きます』


そう言って、電話は切られた。

…もっとも、全てがフェイクだ。
田中さんが、この男に指定された場所へ行ったところで、誰もいない。
そもそも、トラブっている案件そのものが存在しないんだから。


「ご苦労さん、帰って良いよ?」


オレは男の手からスマホを取り上げ、金の入った封筒を手渡すと、その場を去った。

途中、通りかかった橋の上から、スマホを川に投げ入れる。

闇の中

ぽちゃん、と かすかな音を立て
川面はゆらゆらと揺れていた。



向かう先は、後藤との合流場所だ。

こみ上げる笑い…
高鳴る胸が、痛いほどの鼓動を刻んでいた。





ホテルで後藤を待つ。
予定の時間よりも遅いことに、オレはイラついていた。

ゆっくりと…その ドアが開いた。


「遅かったじゃないよ」

「………」


…??   おかしい。


目の焦点が合わず、震えている。
後藤の ただならぬ様子に、緊張が走った。


「何があった?領収書は?!」

「あ…無い…」

「無いって、どういうことだよ!」


ガクガクと肩を揺すると
後藤の頭が、前後に大きく動いた。


「言えよ!!おい!!! 」

「大野、が、金を…受け取らなかった…」


…目の前が真っ暗になった。

ここまで来て…何故?!
やっと、アイツに手の届く場所まで引きずり出せたのに!!


…あの場から田中さんを引き離した事で
不信感を持ったのか?

頭のキレる人だ。
もしかしたら…何か微妙な空気を感じ取ったのかもしれない。
それに…


オレは、目の前で震える後藤を一瞥した。


…青ざめ、怯えた表情


ゴメン…ゴ、ナサ…ュ…シテ…


もう、何を言っているのか
コイツの言葉が聞き取れない。


チッ  壊れた、か。

気の小さい、使えない男。

オレが大野でも、こんな奴と危ない橋を渡ろうとは思わない…な。

こんな男と手を組んだ オレが…
馬鹿だったということか。


固く握りしめた拳を 

テーブルに叩きつけた。




つづく




メッセージのお返事滞ってます。
もう少し待っててね…


miu