私は、立ち止まって空を見上げた。
あの日と変わらない、東京の青い空。
今日も、世界中を照らしながら私を見守っていた。
今もどこかで元気に暮らしているだろうか。
表参道の人ごみの中で、ふと、あの夏の日を思い出した。
今から6年前…。
それは、まだ今ほど携帯電話が普及していなかった頃、
私の携帯電話が鳴った。
ちょうどこんな夏の日、そして場所も表参道だった。
着信の表示は《ヒツウチ》。
私は高校の夏休み中、塾へ向かう途中だったかな。
当時、非通知でかかってくる電話はかなり珍しかったので
かなり迷って出なかった。
その後に吹き込まれた留守番電話を聞いて、
一瞬、周りの世界が止まったのを今でも覚えている。
『あ、俺、高橋だけど…』
私は物心ついたときから海外で育ち、
高校2年の冬、日本での大学受験の為に日本にやってきた。
初めての日本、初めての東京。
来たばかりの頃は何もかもが新鮮で、
受験勉強なんかそっちのけだった。
私立の女子高に編入し、友達や先生にも恵まれ…。
ごく普通の、女子高生だった。
ごくごく普通の。
あるとき、クラスの女の子が私を番組に出したいと
持ちかけてきた。
アイドルが司会をしているバラエティー番組。
《あなたの周りの変わった子》ってテーマだったかな?
『あんたみたいなキャラはなかなかいないんだからっ』
そう意気込む友達に押され、応募を了承してしまった。
あの夏の日から、何か月前かの話…。
でも、考えてみたら、あのアイドルが
一般女子高生の私に電話なんかしてくるはずがない。
きっと誰かのいたずらだったんだ…。
自分自身にそう言い聞かせて毎日を過ごしながらも
心のどこかで、もしかしたらホンモノだったのかな、なんて
考えてしまっていた。
でも、もしそうだとしたら何で…?
考えれば考えるほど分からなかった。
私の両親は、“厳格”という言葉がピッタリな、
古風な考え方の人だ。
-いい大学に入って、いい会社に就職し、
いい人を見つけて結婚しなさい-
そんな事を聞かされて育ってきた。
そして、それが当たり前だと思っていた。
ちょうど塾の夏期講習から帰るとき、
また表参道を歩いているときに電話がかかってきた。
画面には《ヒツウチ》。
出てみると、『おっ、出てくれたんだ。こないだ留守電聞いた?』
その声は、テレビで聞いたことのある、あの声だった。
私の、長い長い…4年半の物語の始まり。