本を読んだときのもっとも嬉しい喜び。
それは自分の知らなかった事柄が知識として飛び込んでくる瞬間ではなかろうか。

この本でもそんな瞬間が何度もあった。


まず木曜島(Thursday Iland)という島があることを知らなかった。
木曜島という名称があたかも日本領のように思わせるが、オーストラリア領であること。
その木曜島なる小さな島に、明治から戦前にかけて、主に和歌山周辺の人々が多く渡っていたこと。
しかも山の民のはずの彼らが、ダイヴァーとして出稼ぎしていたこと。
その目的は、ボタンに使用する真珠貝の採取にあったこと。
敵国になるまで続けられた出稼ぎ期間の間に、約700人もの日本人が潜水病で命を落としたこと。


ものには必ず最初がある。
よし、木曜島に行こう!などと考えた最初の日本人はいったいどういう思考経路でそこに辿り着いたのか。

あるいは本書に出てくる日本人の働きぶりに畏敬する。
700人が潜水病で死んだ。ハンパな労働ではないというのは一目瞭然だが、そんな中でも日本人ダイヴァーは辛いとはあまり思わないのだ。しかもダイヴァーは儲かる。命を張って金を儲ける。一日12時間も潜るのだ。そりゃ潜水病にもなる。でも彼らは黙々と海に潜る。どうも金のためだけではないらしい。金ももちろん重要だが、それは暫くすると気にならなくなる。あるのは、隣のダイヴァーとの水揚げ量での勝ち負け。昨日の自分との勝ち負け。周辺との勝負という、より狭い要素の中に自分を閉じ込め、それを理由にして潜る。それを理由にしているからこそ、辛いとは思わない。むしろ面白くて仕方がなかったと証言している人もいる。

理由は定かではないが、僕はそういう日本人の風景に非常に感動する。
だから本を読み続けているのかもしれない。






木曜島の夜会 (文春文庫)/司馬 遼太郎

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いわゆる企業小説だったが、面白かった。
仕事をしている一人の人間としてリアルだし、仕事を通してはいるが
城山さんは人間としての在り方を投げかけているからだ。


タイプの異なる男たちがキーマンとして登場する。
そのタイプは周りに必ずいるという典型的なタイプだったりする。
家庭を犠牲にし、鬼と恐れられる仕事人間、社内異動などの機密をどこからかいち早く聞きつけて、本人にそれとなく伝えたりする噂話好きな男、上司におべっかを使えず貧乏クジばかり引く不器用な男。


企業人として、
どれが正解などとは城山さんは言わない。
正解がないからだ。
だから唐突に終わる。
ハッピーエンドなのかどうかもわからない。

そこがいい。









毎日が日曜日 (新潮文庫)/城山 三郎

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