「なんでもなおせるクスリ」
               相田 彩
 ある日、キツネの親子は森の中で小さなクスリ屋さんを見つけました。
 看板には、「なんでもなおせるクスリあります」と書いてありました。
 人間に似た大きな白衣を着た人が、せっせとクスリを作っています。
 キツネのお母さんは、昨日坊やが転んだことを思い出しました。
 「このくすり、キズにも効くかしら?」と尋ねると、「もちろんですとも。キズでもなんでもなおしてくれますよ」とその人は言いました。
 お母さんは、一つ買ってみることにしました。
 「おいくらですか?」と聞いてみました。
 すると、「このクスリが必要ですか?それなら、差し上げましょう。ただし、一度、私を笑わせて下さいよ」
と、返事がきました。
 笑わせればいいのね。お母さんは考えました。そして、坊やと一緒にクルンっと回って、一瞬だけ消えて見せました。キツネにとっては、簡単でした。
 クスリ屋さんは、とても喜んで、お母さんと坊やに一つずつ、ツボに入った薬をくれました。
 帰り道、お母さんはさっそく坊やの足にそのクスリをつけてあげました。
「坊や、昨日転んだところを見せてちょうだい」
 坊やの足は、赤くなって少し血が出ていました。でも、お母さんがそのクスリを塗ると、みるみるうちにキズが消えました。
 このクスリ、すごいね。
 その次の日、朝起きると、お母さんが苦しそうにうずくまっていました。
 「お母さん、どうしたの?起きてよ!」
坊やが呼んでも、お母さんは苦しそうにしています。坊やは困って泣き出してしまいました。
 でも、坊やが泣くと、いつもやさしく頭をなでてくれるお母さんは、まだ苦しんでいます。
 「そうだ、あのクスリを使おう!」
坊やは、昨日もらったクスリを持ってきました。お母さんの体や頭をさすりながら、そうっとやさしく塗ってあげました。
 すると、お母さんは目を覚ましました。
「坊や、どうもありがとう。」
「お母さん、昨日森でもらったクスリって、すごいね」
「そうだね。このクスリがあれば、みんながもっと幸せになれるかもしれないね」

 このクスリを、みんなに分けてあげるには、どうすればいいのだろう。
 もう、中身も少ししか入ってないよ。
 お母さんはしばらく考えて、こう言いました。
 「坊や、お母さんは、坊やが心配してくれた気持ちで病気が治ったのだよ。だから、このクスリは、優しさを使えるクスリだと思うのよ」。
 「困っている人がいたら、助けてあげようっていう優しい気持ちや言葉が、とても効くの。この壺には、とても暖かいおもいやりというクスリが入っているのよ」
 これ、どうやったらみんなに届くのかな。
 お母さんは、言いました。
「私たちはキツネだから、少しだけ魔法が使えるでしょう。時々、人間に化けて、町に出かけたらどうかしら。」
 坊やは、うなずきました。これから、お母さんといっしょに冒険が始まります。
 お母さんは、本当に助けを待っている人にだけ使うと言いました。そして、その方法は、クスリの壺を開けて、効果を振りまきながら、そっとその人の前を通り過ぎるだけです。
 ぼくは、お母さんと約束しました。何があっても、声は出さないこと。さすったり、なでたりもしないこと。
 ただ、静かに前を通り過ぎて、陰からそっと見守ることです。
 ぼくたち親子は、特別なクスリを持っています。絶対に、何でもなおせます。
 だから、君が困った時には、ぼくたち親子が前を通るよ。気が付かないと思うけどね。