あなたは、とてつもなく大きな鳥だ。翼を広げると幅10メートルもあろう巨大な鳥だ。
あなたは、そんな鳥などいないというかもしれない。
しかし、間違いなくその鳥は存在するのだ。そして、それはあなた自身なのだ。直接自分の顔を見れないように、あなたも自分自身を直接見れない。自分の姿を視認できないが故に、あなた自身がそんな巨大な鳥であることを確認できていないだけだ。
そして、そんな巨大な鳥であるあなたは無色透明だ。所謂、霊鳥かもしれない。されど、とにかく、あなたは無色透明なバカデカい鳥なのだ。
あなたは、その大きな翼を優雅に悠々とはためかせ、大空を飛んでいる。頭上には照りつく白黄色の眩い太陽。眼下には、星屑のように小さな人間の街並みが広がっている。
暫くそんな景色を楽しみながら上空を飛んでいると、眼前に大きな山が見えてきた。
と、その時、あなたのその大きく無色透明な真ん丸の瞳に山の頂上で横たわっている男の姿が映った。あなたは、山に近づき頂上の男に視点をフォーカスした。そして、耳を澄ませた。
男は、大の字に横たえ
「・・・助けてくれ、・・・助けて・・・。水を、誰か・・・水を・・・!!!」
としゃがれた声で言っていた。仰向けに横たわっている男の頭上にはペットボトルが3本、乱雑に置かれていた。そのペットボトルには茶色く濁った水が入っていた。もう、飲めやしない。
あなたは、急いでその男を助けようと男の元へ向かおうとしたその時、あなたの耳は何かの音をキャッチした。
「助けてくれぇぇぇ!!誰か・・・助けてくれぇぇぇぇ!!!」
あなたは、山頂の男を見た。しかし、その男は相変わらずの虫の息で、しゃがれた声を振り絞って微かな音量の助けを求めていた。
この男ではない。声の主は他にいる。
と、あなたは判断し山の辺りを見回した。
すると、山頂へと続く断崖絶壁に大きな登山用リュックサックを背負った男が、岩肌の突起した所を掌で掴み、腕一本でぶら下がっているのを発見した。
「助けてくれぇぇぇぇ!!!
」
声の主は、この男だ。
あなたは、山頂の男をα、崖の男をβとした。
あなたは、αには悪いが、緊急性の有するβから助けようと決意した。
あなたは、急いでβの元へ翼を進めた。
βに近づいたその時、あなたはあることに気づく。
βは闇雲に助けを求めているのではなく、右肩にあるトランシーバーに向かって、助けを叫んでいることに。そして、そのトランシーバーから聞き覚えのある虫の音のような微かなしゃがれた声が聞こえることに。
「・・・助けて・・・。水・・・水・・・」
そのトランシーバーから聞こえる声の主は山頂のαだった。
あなたは、もしやと思い頂上に向かった。あなたの察した通り、αの右肩にもトランシーバーがあり、そのトランシーバーからβの救助を求める断末魔の叫びが聞こえた。
αとβのトランシーバーは繋がっており、其々が其々に助けを求め合っていたのだ。
と、その時、山頂にいるあなたはあることを発見した。
横たわるαの頭上の茶色く濁ったペットボトルは腐った水ではなく栄養豊富なビタミン入りスポーツドリンクであった。
あなたは、急いでβの元へ戻った。そこで、あなたは、また驚くべき事実を発見した。
βの背負っている大きなリュックサックはパラシュートであった。
あなたは、思った。αはβに助けを呼ぶ前に、手を伸ばしてスポーツドリンクを飲めば良いではないか!βはαに助けを呼ぶ前に、手を隆起した岩から放して落下し、落下途中でパラシュートを広げれば良いではないか!
何故、人に助けを求めるばかりで、汝自身を救わない!
あなたは、バカらしくなり、その山を離れた。
あなたは、山に背を向け、また、悠然と空を飛んだ。
あなたは、無性に腹が立ち、眼下に広がる星屑のような街並みに唾を吐いた。そして、頭上の燦々と輝く白黄色の太陽を睨み付け舌打ちした。
あなたは、人も太陽も呑気なもんだと思いつつ、飛行速度を急激に上げ、どこまでもどこまでも飛んでいった。
目的地もなく、目的もなく、ただただスピードを上げ続け飛んでいった。
〈了〉
つまり、アラフォーの僕自身を救えるのは、他ではない僕自身です。
ということの例え話なんです。上の短編小説は。
他人に「僕に恋人がいないから作って‼」といったところで、他人が僕に恋人を作ることはとても難しいことです。
それくらい自分で何とかしろ‼‼ということです。
そして、自分で作った恋人がきっとベターだと思います。