質問について答えは間違いなく競歩である。
それは、私の青春を捧げた競技である。
べつに県大会出場とか大会記録とか大層なものが残せたわけでもなかったが、とことん歩くことが好きだった。
肩甲骨、脊柱、股関節が連動し、一歩一歩の愚鈍な歩調が車輪のようにスムースな推進を得たときは何にも勝る幸福を得た。
同世代からは、気持ち悪い動きだの、物好きの変態だの大層な言葉を頂いたが、
それでも、どこまでも歩くことに固執した競技の面白いあり方に惚れ込んでしまったのだ。仕方がない。
脇目も振らず、ひたすらに歩いていた。
しかし、競技をやればやるほど自分が求める美しい歩行とは自分のそれは程遠いと自覚させられた。
少しでも理想のその景色を見ようとあるき続けた。
だけど、もう何年もやってない。ちゃんと歩いてない。
自分の足でしっかりと立って進めていないのだ。
いつからだろう、こんなにも醜い歩き方をするようになったのは。
もしスポーツ選手になったら、最高の景色を眺めたい。
圧倒的な美しさと速さを兼ね備えたあの異空間に身を投じてみたい。
叶わないからこそ願ってみるのも面白かろう。
さて、あしたはどんな一歩を踏み出してやろうかしら。
