やって来たバスは そこで暫く停車して時間調整。
乗客はチラホラ。
中に 知的障害があるらしい青年とお母さんがいて、彼は何が歌っていた。
同じところを繰り返し歌うのだが、メロディーが少し違うものだから
前の席のお母さんが振り返っては 小声で歌い直している。
ああ、『遠くへ行きたい』だ!
程よく冷房の聞いた車内の 平和な昼下がりだった。
運転手が何が車内放送をしたが聞き取れない。 どうせ時間調整のことだろう、と私は気にとめなかった。
と、今度は振り返って、まず件の親子に、続いて後方の乗客に
「どこまで行かれますかあ?」と訊ねる。
親子は5つ先の、私も降りる予定のバス停を答え、他のグループ客も近場だった。
再びマイクで車内放送。やはり聞き取れないが、何か謝っている。
バスはまだ動かない。
? ? ?
私はイラッときて質問。
「どうしたんですか? バスの調子が悪いんですか? 終点まで行かないんですか?」
運転手いわく、
「いえ、行きます。ただ、そちらのお客さんが大きな声で歌の練習をしておられるんですが、○○町で降りられるそうですから、他の方はそこまで辛抱して下さい、と、、、」
はあ~っ?
「全然 問題ありませんからっ!!」
私は思わず叫んでしまった。
ようやくバスは動き出した。
自分の事みたいに悔しく悲しかった。
目が合うと、お母さんは私に静かな声で「いつもこの路線を使ってますけど、こんなこと言われたの初めてです」と。
青年だけは何事も無かったように、またお気に入りの ♪あ~いするひ~とと
お母さんはやはり静かに「もうやめようね、皆さんに迷惑だからダメだって」
やがて、同じバス停で私達は降りたけれど、
そのあと あの運転手は
どんな車内放送をしたのだろうか。





