新米らしき衛兵を軽くあしらってから本部の中に入ってみると、自分が思っていた程人がいないことが見て取れた。
「ふわああああ…っ」
周りに誰もいないことを確認して、大きく欠伸をした。戦闘によって傷ついた体の節々が痛む。救護室に行って回復してもらわなければ…。
「未來」
自分の良く知る声がする。振り向いてみるとミューオ様が壁に寄っかかって立っていた。
「~っ、ミューオ様!」
走り寄って思いっきり彼の腰に抱きつく。うんうん。落ち着く匂いだ。
「まったく、今回も帰って来たのか…」
「あたり前ですよ、だって『不死の魔女リーガン』なんだから。皆の期待にも応えてあげなきゃねーって痛っ!!」
ペラペラと話していたら私の頭に手刀がくだった。結構痛い。
「調子に乗るな馬鹿」
「ば、馬鹿じゃないですよ!!」
ミューオ様は呆れたような顔をしてから、「部屋までついてこい、傷は俺が診てやろう」と勝手に歩き始めた。
「で、でも救護室で診て貰うので…ミューオ様にご心配をかけるわけには…」
「だからそれが馬鹿だといってるんだ。あんな気まぐれ医者より、俺の方が信頼出来るだろう?」
ニコッと笑った彼の笑顔に反論出来ない。ついていくしか無さそうだ。
「痛くしないでくださいねー…」
私は先に歩き始めた彼の背中を追いかけた。
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「ぎゃー痛ぁっ!!傷口が痛いよ沁みるよー!」
「あまり大声で叫ぶな、俺や周りの奴らに被害が及ぶ」
「被害とはなんですかぁ!」
「…被害は被害だ。ほら、大人しくしてろ。きちんと傷口を消毒できない」
「うなー」
今、私は本部最上階にあるミューオ様の部屋で傷口を治療してもらっている。魔法でじゃなくて原始的にだが。消毒液が沁みるし。彼は必死に痛みを堪えている私のことなど尻目にてきぱきと包帯をあらゆる所に巻いてゆく。
「魔法で治してくださいよ…こんなおばあちゃんみたいな方法じゃなくて」
「無理だ。俺は魔女のように魔法を使えない。未來、お前が自分でやればいいんじゃないか?」
「私だって出来ませんよー、普通の魔女だったら両方使えなきゃいけないのに。回復系が使えないのは、なーんでだろー」
「馬鹿だから」
「酷いですね、その言いよう…」
私とミューオ様は容姿が似ている。髪の色、目つき、鼻筋、性格に至るまで。大抵、同じような者同士は馬が合わないというが…私達はなんだかんだ気が合っている。2人とも口が悪いのが難点だが。
「できたぞ」
彼が「よっ」と立ち上がる。自分の足を見ると芸術品のように包帯が巻いてあった。
「未來は俺と話すとき話し方変わるよな」
「あ、ありがとうございます…って、それは仕方ないんですよ親しみやすいんですから。この敬語だって疲れるんですよ?」
「あーあーそうかよ」
凄いこれ、一生外せないくらいに綺麗だ。
「包帯ぐるぐるでまるで壊れた人形のようだな…と、そうだ。お前に服を渡すのを忘れてた」
「え、服…ですか?」
「そんなボロボロな格好ではまともに戦えやしないだろう。新しく戦闘しやすいものを用意しておいたんだが、どこへやったか…」
彼は「これじゃない」「なんだこれは!?俺はこんなもの頼んでなかったぞ!?」等と言いつつ5分近く隣の部屋を探しまわり(ドアが閉まっていて何が起きたのかわからなかったが)、資料に溢れた中から紙袋を見つけて戻って来た。
「これが、お前の新しい洋服。それと帰還したばかりで悪いんだが、どうしても明日中に完遂させてほしい仕事があるんだ」
「はあ」
「その資料あの中からとってくるから、今のうちに着替えとけ」
そう言ってまた隣の部屋へと潜っていく。私に気を使って向こうの部屋に行ってくれたのかは知らないけれど。
「ミューオ様は、優しいなぁ」
冷徹で非情な人、なんて訳がない。
呟き、彼が戻ってこないうちに急いで着替える。