「特措法改正の背景には、国民の恐怖を起爆剤に、これまで権限が及ばなかったところに強制力をもたせたいという、政府与党の思惑が感じられます。しかも緊急事態宣言下、指示に従わない人を罰したいという感情にとらわれている人が多く、法改正しやすいということでしょう。しかし、この決断は罪刑の均衡性を揺るがし、感染症に関してなら人権侵害をしてもよいという前例になりえます」
国民が冷静さを失っている隙にとは、たしかに禁じ手である。そのうえ、
「罰則規定は人々の行動変容に影響は与えると思いますが、それが望ましいのか。韓国ではマスクをしていない人を撮影して密告すると、その人に罰金が科され、密告者に報奨金が出る。中国では団地内の相互監視が強権的な監視国家の強制力をさらに補完している。こうしたことを始めれば、われわれが前提とする社会から乖離してしまいます。
東京脳神経センター整形外科、脊椎外科部長の川口浩医師は、
「特措法や感染症法の改正より先に、やるべきことがあるはずです」
と言って、続ける。
「政府は新型コロナ患者を受け入れる開業医や民間病院に、助成金を支払うと表明しました。ボールが医師会側に投げられたので、医師会は医療提供態勢を再構築するための条件や案を提示する必要があります。具体的には、指定感染症2類相当からの格下げを議論の俎上にのせることです。医師会は会員の開業医や民間の勤務医に、“新型コロナが2類相当から格下げされたら患者を受け入れるか”というアンケートをとるべきです。強い使命感をもった会員の先生は多いので、たとえばインフルエンザと同じ5類になれば、受け入れる医療機関は増えるはず。アンケート結果にもとづき、政府に“2類から格下げされれば、これだけのリソースが確保できる”というデータを示せるのです」
現実には、医師会の言動はなかなか改まらない。
「“感染者数を減らすべきだ”としか言わず、自ら学術専門団体と名乗りながら、言動は科学的エビデンスにもとづいていません。これでは、コロナ対応は公的病院に任せ、自分たちのところに火の粉が降りかからないようにしている、と思われても仕方ありません」
汚名を返上したければ、医師会が率先して2類相当からの格下げを、政府に働きかけることだろう。
「2類相当のままコロナ患者受け入れを強いられれば、中小医療機関までが、バイオテロさながらの過剰な患者対応を強制され、院内の動線もほかの医療活動も制限されてしまう。現場は疲弊し、志の高いスタッフも離職してしまう恐れがあります。一般の患者もコロナがエボラ出血熱並みに扱われていれば、受け入れている病院は避けるので、助成金では賄えないほど収益が減少してしまいます。一方、受け入れを拒めば病院名を公表され、このSNSの時代、恰好のターゲットになります。この悪循環こそが医師会の言う“医療壊滅”ではないでしょうか」
「週刊新潮」2021年1月28日号 掲載
