こんにちは。暑い日が続きますが、まだ湿度が低く快適です。



前回の下船から2ヶ月が経ち、そろそろ次の船の連絡かな?とドキドキする時期になってきました。ただ土日に連絡が来ることはないので安心です(笑)



前回の自動車船は、3ヶ月ちょいしか乗船していないのです。乗船:休暇の割合は2:1が一応の規定なのですが、船のスケジュールの都合もあるので、この通りとは限りません。外航船員は長期休暇をモチベーションに乗船しているようなものなので、休みが多い分には大歓迎です!



ちなみに1年間を通して、この規定よりも休暇が少なくなる時は「休暇買い取り制度」と言って、1日単位でお金が支払われるのですが、あまり割に合う金額ではないので、現場からは不評です。ただ緊急乗船によって、例外的に休暇が短くなった時に運用される制度なので、あまり乱発されることはありません。



さて、今回は船員にはお馴染みの「引継書」についての話題です。



オフィス勤務のサラリーマンであれば、通常2〜3年の期間は同じ部署で同じ仕事をするのが普通だと思います。そして、4月・10月の人事異動の時期になると数日間かけて後任者への引継ぎに追われます。

2〜3年分の業務の「これまで」と「これから」を何も知らない人に分かりやすく伝えるのはさぞ大変なことだろうと思ってしまいます。



外航船員の場合、乗船すると息つく間も無くすぐに作業服に着替えてメモ帳片手に、前任者からの引継ぎを受ける態勢に入ります。二等航海士の場合、出港後すぐに送るメールの保存場所、航海計画の方法、航路が変更になる可能性はあるのか、出港後の気象情報、主な航海計器の使い方、航海計器の点検日程、といったところを前任者から重点的に教わることになります。この間は一言も聞き漏らすまいとひたすらメモメモメモです📝 前の船とPCのフォルダ分けが異なることも多いので、どのフォルダにどんな内容の書類が入っているのかを大まかに把握しておくことも必要です。

(膨大な量のため、結局その場ではなかなか把握出来ず、出港してからじっくりと習熟することになるのですが。)



なぜなら出港してしまえば、その人の業務はその人しか分からないからです。船には各階級の航海士は1人しか乗っていないため、前から乗っている上司・後輩も他の人の業務内容を細かい実務面までは把握していません。俗に言う「業務の属人化」ですが、これにより各人の所掌が非常にクリアになり、責任感が生まれる面も大いにあるので、決して悪いことではないと思っています。



さて、前任者から口頭での引継ぎを受け、生じた疑問点を質問してクリアになれば、緊張しながらも出港となります。もちろん前任者は引き継ぎの終わったこの瞬間が幸せいっぱいのひと時です(笑) 口頭での引継ぎには概ね6時間程度かかります。オフィス勤務をされている方から見たら信じられない程短いと感じるのではないでしょうか? もちろんこれは、後任者の経験値にもよるので、もし何回も同じ種類の船に乗っていれば説明がだいぶ省けることとなり、4時間で終わることもあります。



引継ぎは入港中に行われます。現在は荷役が短時間化しているので、港には1泊2日滞在していることが多いです。(中には1週間停泊している羨ましい船もありますが、数は少ないです) このため、乗船者は初日(入港日)に乗り込んで、前任者は翌日(出港日)下船することになります。たまに「便乗引継ぎ」と言って、港から港への航海中に引継ぎを行えることがあります。これはある港への停泊が数時間で十分な引継ぎ時間が確保出来ない時に実施される措置です。私も前回の自動車船で初めて体験しました。

サンフランシスコ〜ロスアンゼルスまでの2泊3日を後任者と一緒に過ごしたのですが、これはめちゃくちゃラクです(笑) 



前述の通り、6時間程度で引継ぎは終わる訳ですからそれが終われば自ずと暇になります。本来は自分の下船までは業務の責任は自分にある訳ですが、後任者もやることがないと、いつまでもお客さんのようで気まずいため、翌日からは彼に業務を委託することになり、いよいよ本格的に暇になる訳です。時々業務上の質問に答え、あとは段々と雑談ばかりになりました(笑)



さて、前任者が下船してしまえば、自分の担当業務で不明点が出てきてもおいそれと聞ける環境にはなくなります。もちろんLINEは交換しておくのですが、引継ぎ時のように手取り足取り教えて貰える訳ではありません。



そこで役立つのが「引継書」です!これはA4サイズで20〜30ページ程度で、担当業務のことがまとめられている資料です。下船が決まると、この作成に取り掛かるのですが、一から作るものではなく、基本的に前任者のものをアップデートする形で行われます。例えば、航海計器の消耗部品交換の次回期限など機器の取り扱い方もこれにまとめられていることが多いので、口頭で聞いてパッと分からなかった場合でも、これを見てじっくりやれば安心です。



ところで、通常後任者は日本人の先輩・同期・後輩になるのですが、稀に外国人に引き継ぐことがあります。会社の都合で、「〜丸は今後二等航海士をフィリピン人船員にする」となるのです。幸にして私は未だこの経験はないのですが、こうなると大変です💦20〜30ページの引継書を英訳する作業が待っているからです。