Autonomous

制作国:イギリス(2019)

監督:イアン・ヘンリー

脚本:イアン・ヘンリー、Petr Davydtchenko

出演:Petr Davydtchenko

 

【このレビューは結末に触れます】

野良猫でも人間に懐かないタイプの野生っぽいやついますよね。

比喩ではなく、主人公の青年はまさにそれです。

 

といっても本当に野良猫のように生活しているわけではなく、我々のよく知るところの人類のあり方とそこまで大きな違いはありません。

自転車に乗り、ナイフと火を使い、森で狩りをする代わりに車に轢かれた動物を拾い、寒さをしのぐためにその毛皮を利用し、時には荒れ果てた教会で祈り供物として獲物を捧げ、迷い犬の張り紙を気にかけたりもします。

ただ、そうした”人並み”の知恵と情緒はあっても、他の人間と交わることはせず、他の生き物を飼いならすこともなく、彼は”一匹”で生きることを望んでいるようです。

 

もし”野生”として森の中で暮らす人間であったら、肌は汚れてベタつき髪も髭も伸び放題になるでしょう。

一方、野生動物はいつでも美しい毛並みと濁りのない瞳で、人間よりもずっと清潔に見えます。

青年は一年を通して短髪で髭も生えず、整った肌と澄んだ瞳をたたえており、まるで野生動物のようです。

つまりこの映画は、ある種の理想を可視化した美しいファンタジーなのだと思います。

 

終盤の方でせっかく作った小屋が(おそらく放火により)燃えてしまっても、彼は泣いたり怒ったりしませんでした。

ただ「人間社会のルール」に従うことをやめ、さらなる森の奥深くへ足を踏み入れて行きます。

大いなる自然に対しても、その傍らの文明に対しても常に受け身であって、能動的に支配しようとはしません。

彼はただ、「生きていくため」にそこにそうしているだけ。

その潔よさ、怖いくらいの純粋さに、私は心癒されるような気がしました。

 

実際の人間は彼のようには生きられません。

とはいえこの”野良青年”のひたむきに生きる姿に、野生を捨てた人間の我々も何か学ぶところはあるでしょう。

すべての生命ある者の生来の目的は「生きるために生きていく」ことだから。

 

 

公式サイト(英語):