後、1年か。
後1年で当主となる。
その為には学ぶことが沢山ある。
経営・・・
まぁ、頑張るしかないし。
少しずつそっちの手伝いはしてるし。
「翔、今回も可哀想な奴が出てくる。 私はね、全員を助ける余裕はないよ? けど、絶望の中でも助けを求めてる人は欲しいと思うんだよ」
「どういうこと?」
「翔も誰も助けて貰えないと思ってたでしょ? 」
「そうだね。助けて欲しくても無理だとは思ってた」
売られたものは最初は助けて欲しいと思ってても結局誰かに買われてもまた奴隷として生きていかなければならない。
「でも、それでも目は諦めてなかった。 だから翔を高い金で買った。 先代に頼んで。 全ては金の世界なのかもしれない。 けど、それだけじゃないのを教えたかったかな。」
え? そうか。
確かに金だけじゃない世界ってのは知った気がする。
「で、今日は翔、お前が1人で見てきたらいい。
自分の目で選んでこい。 いなければいなかったでいいし複数いたらなら複数選べ。 」
「分かった。」
いくらだよ。 これ。
「いいんだ。 それで払った半額を本人に求める」
相当な量だ。
「行ってくる」
俺は向かった。
一人で来るのにはやっぱり嫌だけど。
当主になったら定期的に調べて時には会場に行くことになる。
ついた会場は騒がしい。
涙流してる奴ならいっぱいいる。
でも、俺の時よりも小さい子がいた。
10歳か。
この子、いつ倒れてもおかしくない。
けど、生きる希望は持っている。
ちゃんと生きて欲しい。
司会者の言葉凄くムカつく。
何が主人に従って何でもするだよ。
それに、どうやら徹底的に奉仕をしていたみたいで。
失敗すれば叩かれて。
それで笑う奴ってどういう神経してるんだよ。
まぁ、子供だから最初が1000円からだけど。
人気だな・・・
確かに可愛いからな。
5000万が最高か。
じゃ、こっちは1億だ。
子供に億をかけるなんていないだろう。
よし。 1億か。
ってことは5000万を払うってことか?
そりゃきついな。
まず、健康じゃないきゃダメだ。
「今日から俺と一緒に住むんだ。 君の名前は?」
「じゅん」
「じゅんくんか。 よろしく。 俺の名前は翔。 俺が怖い?」
するとじゅんくんは首を傾げた。
「しょおさん?」
随分と可愛い声だな。
「ここが俺の家。 前のお家みたいに嫌なことはしないから安心して?」
じゅんくんはビックリしていた。
うん、そうだろうな。
「随分と可愛い子を連れてきたな。 アカネに見てもらえ。 私の挨拶よりも君の健康の方が大切だ」
「そうだね。 聞いてみる。」
俺はベガの部屋のアカネの所に向かった。
「どうされました? 」
斗真が駆け寄ってきた。
アカネ専用に近い手伝いさんだ。
「アカネはお客さんと対応中か?」
「いいえ。 この時間は空いてます。 あ、もしかして・・・」
じゅんくんを見て何かを察したのだろう。
「斗真、後で紹介する」
急いでアカネの部屋に向かった。
客はいなくてもノックをした。
中に入るとアカネは相変わらずの生活だった。
「珍しいですね。 私の部屋に何か?」
「じゅんくんを見て欲しい。 医師の知識はまだ残っているだろ?」
「この子ですか。 多分ですけど栄養失調かと。 細すぎてあぶないですし。 顔の頬が特にそう見えます。」
「じゃ、しっかりと食事すれば大丈夫?」
「ええ。 ですが。 じゅんくんでしたか? その子のアザが気になりますね。」
確かにうっすらと見えるアザ。
「じゅんくん、アザとか痛いところまだあるよね? 嫌かもしれないけど見せてくれるかな?」
じゅんくんは頷いて脱ぎ始めた。
上半身に沢山アザがある。
「擦り傷の所は消毒しますね? 」
目立った擦り傷は絆創膏を貼って対処した。
「アザは様子見。 2、3日したらまた連れてきて。 」
「分かった。 じゅんくん、大丈夫?」
「うん、ありがとう」
そんな可愛い笑顔見るの初めてなんだけど。
ここは皆何かしら抱えているからそんなに笑顔を見せない。
あー、リンドウは長いから普通に笑えているんだろうな。
アカネは作り笑顔って感じかな基本。
でも、リンドウと話してると笑ってるから相当リンドウが気に入っているのかと思う。
「どういたしまして。 何かあったら相談してください」
「はーい」
うん、良かった。
明るい。
ここに来て正解かな。
「斗真、この子はじゅんって名前。 良ければ仲良くしてあげてよ」
斗真は俺よりも二つ下。
「はい。じゅんくん、初めまして。 斗真と申します。 よろしくお願いします」
「じゅんです。 よろしくお願いします」
斗真なら話し相手になれるだろう。
「斗真はベガの部屋の手伝い専用の部屋にいるからな」
って分かるわけないか。
「ええ。 何かありましたら連絡ください」
それから俺の家に戻った。
「おかえり。 ここの家は気に入ってくれるだろうか。 君の好きなように生活すればいいんだよ」
「好きなように?」
「そうだよ。 」
じゅんくんは分からないみたいだ。
「じゃ、翔がやることを見てみたらどうかな。 好きなことをやってると思うよ。 」
じゅんくんは頷いた。
と言われても基本は勉強だもんな。
それと仕事。
今日は休みだけど。
俺の部屋に連れて行く。
「俺は普段勉強してるけどじゅんくんは確か小学4年生? 5年生? 」
「僕、お勉強したいけど。 学校行けない」
それは分かるな。
俺も元の学校には戻れない。
で、中学はこっちの近くの学校に。
知られていないから。
「ここの近くに学校あるけど通いたい?」
「でも、僕、通ってない時期あったよ?」
言いたいことは分かる。
俺もそこは独学だった。
「俺は小学校最後の年にここに来た。 幼稚園には通った記憶はあるから約5年? じゅんくんと同じように売られる為の道具として扱われた。」
じゅんくんはピクっと反応した。
「だからかな。 俺は勉強した。 良くなればきっといい事あるって。 確かに勉強して良かったとは思うけどそれだけじゃないことは分かった。」
「え?」
「一日を大切に過ごすことが大切なのがわかったよ。 何をしてもいいんだ。 勉強じゃなくたって。 父さんは花を育てることが趣味でさ。 花壇目立ったでしょ? 好きなことをすることが大切なんだよ。 じゅんくんは好きなことない?」
まぁ、こんな生活するなんて思ってないから無いと思っててもおかしくはない。
「好きなこと・・・」
「やりたいことでもいいんじゃないかな?」
そう言うと
「お料理したい。 ママがね、うれしそうだったの」
そうか。 お母さんとはいい関係だったのかな。
でも、なんで・・・
「じゅんくんのお母さんはどうしてるの?」
そう聞くとじゅんくんは泣き始めた。
聞いちゃいけなかったのか・・・
「ママ、遠くへ行っちゃったの」
遠く? それはつまり・・・
病気かなにかでだよな?
「じゃ、お父さんは?」
「パパ、お姉ちゃんといっしょ。 パパ、ぼく、いらないって」
育てられないって話か。
それで売ったのか。
俺に出来ることはなんだろう。
とりあえず料理をやらせること。
それから・・・
父さんに相談してみるか。
いい答えが出るだろうと思った。