ある朝、唐突に息子が言った。
「パパ、今日はサヨナラの日だよ」
父親は絶句した。
3年前、同じことを言われた妻はその日、帰らぬ人となったからだ。
「…そうか」
父親は平静を装って頷くが、内心は喜びに満ちていた。
とうとうこの薄気味の悪い子どもと別れられるのだと。
3年前のあの日、妻は息子を庇って通り魔に殺された。
つまり、3年前にサヨナラするはずだったのは息子の方だったのだ。
妻は息子を庇ったばかりに死んでしまったのだ。
そう思い至った父親は、息子を恨んでいた。
この子さえいなければ、今も妻は生きていたのだ。
しかし、そんな日々も今日で終わる。
(俺は絶対に庇わないぞ…!)
父親は黒い決意を固めていたが、息子には心配そうな眼差しを向けて言った。
「まさか、そんな…!」
「大丈夫だよ」
息子はニッコリ笑って言った。
「僕から絶対に離れないでね、パパ」
その言葉に父親は戦慄を覚えた。
(こいつ、俺を身代わりにしようとしている!)
父親は息子が妻を身代わりにしたのだと確信した。
続く