コツ、コツ、と人気のない夜の回廊をルナは歩いていた。使用人のために用意されている服は見た目もさることながら動きやすさを重視されており、支給されている靴も貴族の夫人やご令嬢方が履くような硬質な音は出ない。とはいえ完全に足音が消えるようなものでもないため、静まり返った回廊にはほんの少し、足音が響いていた。しかし使用人服を着ている者が、それも正式に使用人として登録されて久しい者が回廊を歩いていたところで誰も気にすることはない。きっと誰かが用事を言いつけたのだろうと勝手に解釈して記憶の隅からさえも消すだろう。
後宮の一室。何の変哲もない扉の一つを、ルナは小さくノックした。
「お入り」