空に揺蕩う 十時(如月 皐)のブログ

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「……お前は良いな、アシェル。フィアナは、本当にお前のことが大切らしい。まさかいつまでも結婚しない、貰い手も無かったお前の相手に公爵家を持ってくるだなんて。おかげでお前は今までもこれからも何不自由することなく傅かれて暮らせる公爵家の人間になった。爵位も領地も、突出した美しさも才覚も、何も持たないただの三男だというのに。いったいフィアナはどんな交渉を公爵としたのやら」

 フッ、と力なく嗤って、ウィリアムは優雅さの欠片も無い所作でソファにドサリと腰かけた。カップを掴む手から力が抜けたのを見て、ルイもその手を離す。

「お前が羨ましい限りだ、アシェル」

 先程までの激昂が嘘のように、凪いだ視線がアシェルに向けられる。

「お前は三男だから、なんの責任も持たない。家名を背負うこともなく、気ままに過ごせて、何も継ぐ物が無い令息には破格の家と婚姻を結び、こうして何の心配もすることなく暮らせる。アシェル、お前は私たちと考え方が相容れないと言ったな? それはそうだろう。お前と私たちでは立場が違う。いつだってそうだ。お前の言う貴族の在り方はお綺麗すぎる。あんなものは現実を何も見なくて良いお気楽な頭が考えるお花畑の理想に過ぎない。だがお前はそんなことにも未だ気づかない。何故だかわかるか? お前をフィアナや公爵が甘やかして否定しないからだ」

 否定されない空間はさぞ居心地が良いだろう。そこに居れば自分の考えは全て正しいのだといつまでも幼子のように信じることができる。そしてアシェルが今いるのはロランヴィエル公爵家だ。ノーウォルトと違い金に困ることは無い。アシェルが願えばロランヴィエルの屋敷で豪華なパーティーや茶会を開くことなど造作もないだろう。食事にも、衣装にも、調度品にも、使用人にも、金が無いからと困ることも無い。そんなアシェルに自分達の何がわかるというのか。何もわからないだろうアシェルの甘ったるい理想を聞いて、その上なにも得られずただ否定されなければならないのか。アシェルはいつだって守られる立場に立っていて、今の自分は多くを守らなければならない立場にあるというのに。