「殿下の筋書き通りには、いきませんでしたか?」
静かな問いかけだった。凪は自分の事であるのだから答えを知っている。そして時に王宮とは真実が真実でなくなる時があるということも。故に凪が知っていることなどこの場ではなんの意味もない。わかっているというのに、不思議と心は名を表すかのように凪いでいた。
「いかなかったな。最初はなんと稚拙な犯罪だろうと鼻で笑ったものだ。まるで子供がままごとで考えたような、ただひたすら残酷で、行き当たりばったりな、策とも呼べぬ策でよくぞここまできたものよと。おかげで最初はヒバリ殿も夫人もナギも無関係で、ただ奴らが勝手に夫人の名を語っただけかと思った。だがそう考えても矛盾は増えるばかりで消えはしない」
何度見ても、人間の目では信用ならないと機械にかけても、問題の書類に書かれていた署名は夫人と同じ筆跡だった。だがそれとなく探りを入れても夫人は何も知らない様子で、これが演技ならば恐ろしいものだと思ったほどだ。そして比較的動きやすい立場にいるはずの凪はまったくと言って良いほど怪しい動きはなく、ただ淡々と使用人としての仕事をこなしていた。サーミフの側近くに侍り、機会など幾らでもあったというのに、サーミフを害そうとすることもなく、何か細工をしようとする様子もなく、むしろ献身的であった。
夫人のものと一致する書類の筆跡。毎年何度か送られる、隠そうともしていないヒバリへの手紙。あからさまにヒバリを苦手とする凪の態度。凪や夫人と接触しようともせず、ただそこにあり続けたヒバリ。
怪しいものは沢山あるというのに、全てが足りなかった。