「断れば今のようにどうして、何故、とお金を渡すまで続けるでしょう? それが煩わしくて、反論するだけの気力も無かったから唯々諾々と渡していました。兄上たちにとっては、さぞ扱いやすい弟だったでしょう。けれど、もう違うのです。僕の人生はもう少し続くようで、どうやら執着もしているようなのです。守られるだけでなく、対等でありたいとも願っています。だからこそ、もう煩わしいからと無気力になるわけにはいかないのです。お金が無ければ人は生きていけませんし、僕にも欲しいものはある。お金を使いたい理由が、ここにあるのです」
使いたいと思うモノに使い、贈りたいと思う人に捧げたい。そんな当たり前のようなことを、ようやくできる。アシェルが持つ金額は貴族にしてはさほど多いものではないが、それでも、今が一番満たされているともいえた。
(兄上たちに、理解してもらえるだろうか)
兄や義姉が衣装を新調するたび、豪華な装飾品を自慢げに見せてくるたび、アシェルは辛かった。自分が渡した金がこんなものに消えたのかと、それを知る度にお世辞の笑みすら浮かべることもできなくなった。
衣装や装飾品が大嫌いだった。それさえ無ければアシェルが渡した金で質素であったとしても充分に暮らすことができ、借金などに頼らずとも夜会やお茶会にも面子を保つ程度には出席できただろう。ノーウォルトの名を地に落とすこともなく、病床にあった父にもセルジュだけではなく、もう一人くらいは使用人をつけ手厚い看護を受けさせてあげることができたかもしれない。食べれもしない、働いてもくれない宝石ひとつで、どれほどの我慢をしなければならなかったか。そしてそこまでして手に入れた衣装や装飾品は、片手で数えられる程度にしか日の目をみることはない。その事実に何度、落胆と失望を覚えただろう。
だが今、ようやくアシェルは衣装や装飾品といった美しいそれらを楽しむことができるのだ。贅沢はできないかもしれない。兄や義姉のそれに比べれば半分ほどの値段でしかできないかもしれない。それでもアシェルはうんうんと頭を悩ませてルイに似合う衣装を選び、小さくなるとしてもルイに捧げたい宝石を選ぶ今に、感じたことも無い不思議な温かさを感じていた。
ルイのために選び、ルイのためにお金を使って誂える。それを渡した時、あるいは身につけた時、彼は喜んでくれるだろうか? その、見ることができるかどうかもわからない一瞬のことを考えれば考えるほど、アシェルはワクワクと踊る胸を抑えることができない。