ずおずとパパの隣に戻るママを見届けてなお冷気を纏う僕の手をとったマリアお姉ちゃんが柔らかく微笑む。


「菫蓮サマ、落ち着いて下さいませ。ね? せっかくですから、良い物をお見せしますわ」


そう言って、マリアお姉ちゃんは近くのテーブルから料理を2皿手にとり戻ってきた。綺麗に盛りつけられた料理は同じようにみえるが、決して“同じ”ではない。


「「マ、マリアちゃん;」」


揃って批難の滲む声をあげたパパとママは、マリアお姉ちゃんが今から何をしようとしていて、その結果どうなるのかさえ予想したかのように -不本意過ぎる- そんな表情をしていた。


「マリアお姉ちゃん、それどうするの?」


「ふふ ご覧になっていて?・・・ねぇ、ショータロー。この料理どっちが好き?」


あぁ``!?どっちが好きも・・・同じモンだろーがよ」



料理をチロリと横目でみたショウが、面倒くさそうに答える。マリアお姉ちゃんは、そんな失礼な態度を気にも留めず続ける。


「くすっ わかりませんわよ?」


「ンだよ、めんどくせぇな。・・・まあ、ちょうど腹も減ってたしな、食うぞっ」


乱暴な言葉に反して、手を合わせ軽く頭を下げる姿は意外で。パパともグランパとも違う“普通”の食模様は、驚くほどにマナーが良い。


(・・・こんなヤツに、味がわかるもんかっ!)


「ん、ンぐ(・・・確かに。微妙に違う、か?・・・)こっちだな」


(ぇ!?)


「そう、でしょうね。 くすくす 」/「「っぅ・・・;」」


「ど、して・・・」


振り仰いだ先には、顔を手で覆って項垂れるパパと相変わらず不本意顔のママ。そして、マリアお姉ちゃんの柔らかい笑顔。どれもみんな、こうなることが判っていた表情だった。


「どうしてかしらね? ふわっ 」


パーティ料理は、“キョーコが作ったものしか食べたくない”とワガママ(ううん、これも立派な愛情表現!)を言うパパの為に、ママが作った“レシピ伝授用料理”(=ママの料理)が判るよう工夫してある。



それは、見た目では区別のつかない料理を、色柄の異なるお皿に載せているだけの簡単な細工。けれど、色や柄に決まりがあるわけではなく、単純に“数少ない”方というだけで、料理ごとに違うそれに気がつくゲストは、まずいない。


(パパの口に入る前に無くなっちゃうことだってあるもん。)


グレイトフル・パーティをママと一緒に開催してきたマリアお姉ちゃんや、家族に近しい極々僅かな人たちだけが知っている事実。当然、ショウの様子からも・・・ショウがこの事実(コト)を知らないのは明らかだった。


「ショウっ!ちょっと待っててっ!!」


少数のお皿が残っている全ての料理を急いで集め、2皿ずつショウの前に並べていく。


「っ、はぁ・・・これっ、全部、食べっ、どっちが好きか答えてっ!」


息が上がって上手く喋れない。少しでも早く“たまたま”“まぐれ”だと思いたい気持ちを隠せず、状況を把握していないショウを急かした。


「ンだよ、一体・・・」


「いいから、はやくっ!」


「っち。たく、食えばいいんだろっ!」


文句を言いながらも、相変わらず綺麗な所作で次々に料理を口にするショウ。


「これは・・・こっちだ。・・・これも、こっちか?これはそっちだな。コレは・・・;まぁ、あれだ。余り得意じゃねぇンだ。悪ぃな、手ぇつけねぇぞ;」


ほとんど一口めで答えて、苦手とした料理以外、どちらのお皿の料理も余すことなく食べ終えたショウは、最後に真っ直ぐと手を合わせた。


「あ~ 流石に食い過ぎた;・・・ごっそーさん」


「・・・ぅ、して・・・どうしてだよ!」


「ンなっ! なに、いきなり泣きそうな顔してンだ?!おいっ;俺がなんかしたか?」


「なん、で・・・全部・・・」


「はぁ!?なっ? あ”~わけわかンねー;お前らが『どっちが好きか』って聞くから応えただけだろーが! 両方、旨かったよっ!流石に天下のヒズリ家サマだな、無駄に良いシェフ集めてやがる!」


今にも涙腺が決壊しそうな僕の表情に何を感じたのか・・・激しく狼狽えたショウの口から、全く検討違いの賛辞(?)が続く。


「ショウ・・・」


「な、な、なンだよっ;」


「認めて、あげるよっ!」


「ぉ ぉぉ、おおぅ!?」/「・・・菫蓮? 認めるって、なにを??」


ショウとママが、揃って?顔で僕をみつめる横で、パパは複雑そうに、マリアお姉ちゃんはとても嬉しそうに・・・微笑んだ。


ショウが選んだのは、全てママが作った料理だった。悔しいけど僕は、きっと・・・パパも、あんな風にできない。勿論、誰かが自由に創作した料理と比べるなら、ううん、事前にどちらか1つがママの料理とさえ教えて貰えたら、ママの料理を“探して見つける”自信はある。


だけどショウは“好きだと感じて”みせた。調理スタッフが、その一流の名に懸けてママのレシピを再現しているにも関わらず、感覚だけでママの料理を選んだんだ。


ショウは嫌な奴で、何よりママの初恋相手だなんて、すごく 気に入らない。だけど、ママの幼馴染みとしてなら認めてあげてもいい・・・


(ショウ って・・・すごいや!!)



---つづく---



#5



ここが、尚サンが無自覚にも菫連クンを誑かしたシーンになりますw