📖 前回のあらすじ

昭和51年2月20日の教室。12歳の姿に戻った健一は、懐かしい「F1(ティレル6輪車)の筆箱」の陰から、現代のマンションで届いたはずの「同窓会の案内状」を発見する。そこには、さっきまで無かった丸っこい手書きの文字で『追伸』が書き加えられていた――。


【第九話】現代へ還る条件


【追伸】

驚かせてしまってごめんなさい。

みなさんが現代へ戻るための方法を伝えておきます。

私たちは、320日に卒業式を終え、最後の授業を受けます。その日になれば、みなさんは無事に現代の2026年へ戻ることができます。

ただし、条件があります。

40人全員が、一人も欠けることなく揃っていなければ、現代へ帰ることはできません』

「3月20日……卒業式の日か」

俺はその文字をじっと見つめた。

黒板に書かれた「2月20日」から、タイムリミットまであとちょうど1ヶ月。その間、俺たちはこの12歳のロスタイムを過ごし、卒業式を終えた後の「最後の授業」を受ければ、あの孤独で残酷な現代へと戻れるらしい。

「――おい、木暮。さっきから手が止まっとるぞ。ここまでのところ、ちゃんとノート取れてるか?」

不意に大喜多先生から名前を呼ばれ、俺はビクッと肩を揺らした。

先生がチョークを持ったまま、怪訝そうな、けれど温かい目で俺を見つめている。

「あ……はい! ちゃんとやってます!」

俺は慌てて手紙を引き出しの奥に隠し、ハスキーな12歳の声を張り上げた。

斜め前の水野が、心配そうにチラリと俺の顔を覗き込んでいる。

(全員揃わないと帰れない……か。まぁ、用具室に集まった瞬間から全員おるんやから。太陽も、片山も、宮本も、水野も……みんな、今ここにちゃんとおるんやから、大丈夫やろ)

俺は自分にそう言い聞かせ、50年ぶりに、鉛筆を強く握り直した。

だが、俺の胸の奥には、なぜか言葉にできない奇妙な胸騒ぎが、トゲのように刺さっていた。

俺は無意識に、教室の隅で真面目な顔をしてノートを取っている、太陽の背中に目を向けていた――。