📖 前回のあらすじ
昭和51年の我が家で50年ぶりに両親と夕食を囲む健一。ちゃぶ台に並ぶクジラ肉とラガービール、『太陽にほえろ!』を観ながら笑う若い両親の姿に、健一は胸の奥で溢れる切なさを噛み締めていた――。
【第十七話】宮本家の黄色いカレー
【数軒隣の平屋:宮本(竜二)の家】
宮本の実家は、路地の奥にある小さな平屋だった。
玄関の引き戸を開けると、すでにあたりには強烈な「カレーの匂い」が漂っていた。
昭和の家庭の定番、ハウスバーモントカレーだ。
「お、竜二。お帰り。遅かったな」
居間のちゃぶ台で、首にタオルを巻いた大工の父親が、黒いラベルの瓶からコップにトクトクとビールを注いでいた。
2013年に亡くなった父親。晩年は小さくなっていたが、今の父親は日焼けした太い腕と肩幅を持つ、頑強な男だ。
「……おう、父ちゃん。ただいま」
「男は黙って、サッポロビール……なんちゃってな!」
父親が瓶を掲げてガハハと豪快に笑うと、奥の台所から大きな鍋を持ったお母さんが呆れ顔で顔を出した。
「何が『黙って』よ。毎日よぉ喋るくせに。……竜二、お帰り。お腹空いたやろ」
お母さんがちゃぶ台の上に置いたお皿には、白米の上に並々と注がれた、少し黄色っぽい昭和のカレー。
「うわぁ、♪〜ハウスバーモントカレーだよ」
竜二が西城秀樹のCMのモノマネでそう言うと、父親が身を乗り出して「秀樹、感激!」とノリノリで返してくる。
そのノリに流され、竜二の口からつい別の言葉が漏れた。
「……竜二、カンレキ!」
竜二が思わず声をあげると、自分の心の中で(……いや、俺はもう還暦超えとるけどな)とツッコミを入れた。
「なんやのそれ。親子で、しょうもない事言わんと、早よ食べなさい」
お母さんが呆れながらクスッと笑い、父親は「ガハハハ!」と腹を抱えて笑った。
「お前、今日はなんか顔つきが大人っぽいと思ったら、ギャグまでオッサンくさくなったな!」
竜二は照れくさそうに頭を掻きながら、スプーンを握りしめた。
「よっしゃ、食うぞ!」
12歳の旺盛な食欲のままに、熱々のカレーを口に運んだ。
――涙が出そうなくらい、美味かった。