下町Oyajyの独り言 -23ページ目

下町Oyajyの独り言

東京の下町生活34年・・・旅 酒 コーヒー 美味いもの 本 映画 音楽 エンターテイメント 山・・・Oyajyのつぶやきにおつきあいください

イメージ 1
クリント・イーストウッド監督作品
The 15:17 to PARIS
ここまで来てしまったのか、イーストウッドは。
これからどうするのだろう・・・というのが率直な感想だった。
前作の「ハドソン川の奇跡」も90分程度だったが、
この映画もほぼ90分の枠に収まってしまう小品である。

2015年8月、アムステルダム発パリ行き高速鉄道タリスの車内で起こった
イスラーム過激派の男による銃乱射という実際の事件をイーストウッドが映画化したものだ。
乗り合わせたアメリカの若者三人が力を合わせて犯人を取り押さえ、
撃たれたのはたった一人だけに留まったという奇跡的な解決を見た事件だったらしい。

特筆すべきはこの三人のアメリカ人の若者役を実際の本人たちが演じている点だ。
他にも当日乗り合わせた人物や警察、レスキューの人たちも実際に出演をしており、
またロケ現場も同じ鉄道の同じ路線を使うという徹底ぶりはイーストウッドのこだわりなのだろう。
後半ラストのテロリストに素手で立ち向かい、抵抗にあいながらも羽交い締めにして失神させ、
乗客を悲劇から救い出すドキュメンタリータッチの映像は迫真の迫力があった。

本人たちがやっているのだから「迫真」なのは当たり前なのかもしれないけれど、
それでもズブの素人を全編に起用するのには相当の覚悟が必要だっただろうと思う。
と言うのも実際の事件シーンはほんの15分ほど、
ではそこにたどり着くまでを一体何に当てるのだろうと思っていたら、
ほぼ全編が彼らが親友になった少年時代の経緯や青年になってからの苦労や苦悩がちりばめられている。そこにはテロリズムに果敢に立ち向かっていくようなヒーローなんて描かれてはいない。
それは全く世界中のどこの誰にでも起こりうる人生であり、ごく平凡な日常に過ぎない。

ここ最近、イーストウッドは実際の事件や実在の人物を映画の主題として取り上げてきた。
「アメリカンスナイパー」の米軍史上最強狙撃手であったり、
「ハドソン川の奇跡」のジェット機の機長であったりだ。
しかし、彼らは既に伝説の人物であり、優秀なパイロットであり、
世間にあまた存在する市井の人々ではなかった。

母子家庭で育ち、やんちゃな子ども時代をともに過ごし、
望んでいた「人を救う」という職種には就けず違う職種でがんばれと言われ、
派遣されていた戦地でヘマをやらかして部隊に迷惑をかけ・・・
そんな普通のアメリカの若者三人が休暇のヨーロッパ旅行を大いに楽しみながらも、
偶然乗り合わせたパリ行き車内で、テロリズムから人々を救ったのだ。
どんな人間にでも自分の能力を生かせる場所は与えられていて、
それはいつどんな形で自分の目の前に現れるかわからない。
人生のすべての瞬間がそんな時間のために用意されているのだ。
「運命に押され」たときにどのような準備をそれまでにしてきたか、なのだろう。

「宗教を持つ」ことや「神に祈る」行為を我々日本人は良く理解できない部分があるけれど
「何者かに見守られている」感覚を生まれたときから持つことって意外と大事なのかもしれない
と感じたラストシーンだった。

さて、こんな実話を本人たちが主役で究極の「ドキュメンタリー風」映画を撮ってしまったら、
もう次は本当のドキュメンタリーを撮るしかなくなるのか、イーストウッドは。
それでも、テロリストを三人が協力して抑え込む果敢なチャレンジは手に汗握ったし、
たくさんの乗客が救出されていくのを見て胸にこみ上げてくるものを感じるのは、
やはりこれが一級のエンターテイメントであるということの証なのかもしれない。