お金の無駄遣い……かもしれませんが、かつての名盤がマスタリングされる、あるいはSACD(スーパーオーディオCD)化して音質を一新し、再び市場に出回って改めて聞き手を感動させる一方、経済的に追っつかないような儚さを感じることも抱えながら各社のモバイルを見たり、商品案内のメールを眺めてはこれを今度はSACDにしたのかと感心しながら自身の足元を見ては指を加えなくてはならないことが多々ございます。

どうしても新たにSACD化された名盤は聞いてみたいのが人情でございます。音質がどうかとても気になって仕方がなく、変に拘っております。



そのような中で今日、昨年末にタワーレコードさんが独自にハイブリッドSACD化された、シューリヒトさん指揮、ウィーン・フィルのブルックナーの交響曲集を聞いてみました。




リスナーさんのレビューで音質の良さを仰っていたので気になって仕方がありませんでしたが、今日それが理解できました。

9番だけ試しに聞いてみました。

確かに旧EMIのハイブリッドSACDよりも楽器は目の前に迫るようでより明確に且つ繊細に聞こえましたし、ウィーン・フィル独特のオーボエ、ティンパニ(トレモロがはっきり聞こえました)など際立って耳に鮮やかに入ってきました。

トロンボーンも存在感が強調されて印象に残りました。

旧EMIのハイブリッドSACD盤も従来のCDより遥かに音質的には向上していることは認めます。クリュイタンスさんのラヴェル集を聞いた時、音色に驚いて急いでSACDを購入したほど(他にはカラヤン、プレヴィンさん、バルビローリさん、リヒテルさん、デュ・プレさん、シュヴァルツコップフさん、ディースカウさんの名盤等)でしたが、タワーレコードさんのSACDは旧EMI盤を上回る音質でざらつきがなく楽器の音が肉迫して明瞭に聴こえてきて耳を疑ってしまいました。



このシューリヒトさんの一連のブルックナーはシングルレイヤーのSACDとしても発売されましたが、3番以外は聞いたことがなく比較はできません。しかし、タワーレコードさんの分は音質的には十分で申し分がなく、改めて買い直す価値は十分にあると断言してもよいほどです。


シューリヒトさんのスマートながら豊かで活き活きとした音楽が心に染み入ってきました。

弦楽器の弓の動きまでも見えてきそうな、ボウイングする音までをも聞こえてきそうな感じまでするようです。

第1楽章の展開部からなんの飾りっ気もなく蕩々と音楽がやや速めのテンポで展開されていきますが、楽団員さんとシューリヒトさんの信頼関係があったればこその仕事、だったのでしょうか、聞いていて天国にいるかのような、ふんわりぼんやりとした意識になってしまいました。

決して昨今の指揮者、オーケストラのような薄味、無個性ではなく無為自然、あるがままの音楽の姿に深い味わいを感じます。

一気にフィナーレまで聞きました。

芝居がかった要素、それはメンゲルベルクさんやフルトヴェングラーさんのような濃厚なドラマはありませんがブルックナーのよさを味わうべき要素、オーケストラの音楽のエッセンスが多分にあります。 

このシューリヒトさんのブルックナーがお好きな方は是非お勧め申し上げます。買い直されても損はないかと存じます。



時代が進むに連れて、かつての名盤が新たに生まれ変わり、我々好事家は嬉しい再会を果たします。これはこれからも何度となく繰り返されることかもしれませんが、来年には更によい音質でなんらかの名盤が我々の目の前に生まれ変わって姿を現すかもしれません……。 

嬉しい反面、商業主義のよいカモでありイタチゴッコだと苦笑する反面でもありますが……。