没後20年になる俳優の太宰久雄さんですが、この方は大変な演技力のある俳優さんでした。
「男はつらいよ」の桂梅太郎ことタコ社長のイメージが強くて当たり前ですが、色々な役柄を拝見したかった俳優さんでした。
「男はつらいよ」の冒頭部、寅次郎の回想、夢のシーンから始まりますがその中でたちの悪い借金取の役、バーテンダー、竜宮城のタコ、極悪な十手持ち、大地主のたいこ持ちなどそれは実にコミカルに演じられて少しの時間ですが太宰久雄さんの才能に敬服しました。
いずれもかわいらしく憎めない愛嬌のある悪い役を回想で演じていました。
余計な一言で火に油を注ぐタコ社長
それを言っちゃあ おしまいよ
それでどれだけぐちゃぐちゃになったでしょうか。太宰久雄さん演じるタコ社長の甲高い声でデリカシーのかけらもない一言がとらやさん一統としては腹に据えかねますし、無神経さに苛立ちを隠しえないところですが、それだけ心を許してお付き合いをしている証左でしょう。よく表現されていると思います。
初期の頃のけんかのシーンは圧巻でした。寅次郎に分があります。タコ社長は幾分負けがちになりますがその一言には大変な一撃を与え、とらやさんの雰囲気を悪い意味でガラリと変える力がありますから。
しかし日ごろ、タコ、タコと馬鹿にはされますがとらやさんの面々は頼りにして、気が置けない好人物しょう。
なにかあれば博さんやタコ社長のお名前をあげますし、いざとなったら動いてくれて策を講じる手腕もあります。
余計な一言もそれは愛からですし、動いてくれるのも思いやりをたくさん持った優しさ溢れるタコ社長は愛おしいキャラクターです。
余談ですが美保純さんが娘というのも後年魅力だったと思います。本当にあるような親子のような。失礼ですが美保純さんが育ちの悪さをうまく演技されていましたし、それをなだめる、あるいはあきれるタコ社長の掛け合いが少なくも記憶に残っております(山田洋次さんの人選の妙が光ります)。
ユーチューブにみのもんたさんの午後はおもいッきりテレビのきょうはなんのひのコーナーで太宰久雄さんのご命日に彼を取り上げられていましたが、見つかりませんでした。秀逸な内容でした。
早くに奥様をお亡くしになり、続いてご子息を交通事故でお亡くしになり生きる気力をなくしたとおばちゃん役の三崎千恵子さん(あったかい人柄で好きです)に洩らしたそうです。あの明るいタコ社長の演じた裏に辛い人生があったようで……。後に三崎千恵子さんのご紹介で再婚されたそうです。
人前に出ることは苦手で読書家という硬派なお姿が本来の太宰久雄さんだったそうでとても想像できません……。
脇役ながら忘れることができない好きな俳優さんです。毎週タコ社長にお逢いできるので嬉しく思います。