ホテル業界には固有の「2007年問題」があると言われている。
 「団塊世代が…」うんぬんを指すのではない。
 今年は、高級ブランドを誇る外資系のホテルが相次いで東京に上陸する。これを受け、顧客獲得競争が激化する「問題」を指す。
 はたして勝利するのはどこなのか? 今後、東京のホテル事情はどうなるのか?
内外のホテル事情に精通するノンフィクション作家・桐山秀樹氏に展望してもらった。



東京の主なホテル、今後の動き


東京ホテル戦争の発端は、90年代に参入した外資ホテルの成功

 3月30日、六本木の東京ミッドタウン内にザ・リッツ・カールトン東京が開業した。4月には溜池の全日空ホテルがANAインターコンチネンタルホテル東京として生まれ変わる。また同月、白金台のラディソン都ホテル東京もブランド変更し、シェラトン都ホテル東京となる。さらに9月には、リッツ・カールトンと共に最高級ホテルブランドの代表格であるペニンシュラも、日比谷にザ・ペニンシュラ東京をオープンする。90年代から過熱し始めたホテル戦争がいよいよクライマックスを迎えることになる。ホテル業界が「2007年」を特別視しているのは、このためだ。

 東京に最初のホテル建設ラッシュが起こったのは、東京オリンピックの開催を控えた60年代前半。次にホテル開業が大きな話題になったのは、バブル崩壊中の90年代のこと。フォーシーズンズホテル椿山荘東京(文京区に1992年1月開業)、パーク ハイアット 東京(新宿新都心に1994年7月開業)、ウェスティンホテル東京(恵比寿ガーデンプレイスに1994年10月開業)が、華々しい成果を上げたときだ。いずれも高級ブランドの外資系ホテル。これらは、東京で並み居る老舗国内系ホテルを客室の平均単価や人気レストランによる集客で圧倒し、「新御三家」と呼ばれるまでになった。

 それまで、世界のホテル経営者たちにとって「東京」の評価は決して高くなかった。何より、ほかの国際都市に比べて土地代が高い。人件費もほかのアジア諸国に比べて高い。というのに、日本人は英語力がきわめて低い。日本を訪れる外国人観光客をターゲットとする外資系ホテルは、これも障害と考えた。これらに加えて「海外並みの宿泊料を客に請求できない」弱点も東京は抱えていた。高級ブランドホテルの宿泊料は、例えばニューヨークやロンドンなどでは1泊6~7万円である。ところが、東京でそこそこのグレードのホテルに泊まっても、せいぜい1泊2~3万円。ホテル経営の根幹を成す宿泊料の相場がここまで違うと、やはり経営する側としては進出に二の足を踏む。

 だが、先の新御三家は、これらの悪条件をクリアし、「良いものならば金を出す」という日本の富裕層や、消費性向の高い女性にターゲットを絞って成功した。ザ・リッツ・カールトン東京をはじめとする外資系ホテルが、東京市場への参入を決めたのは、新御三家の成功を踏まえてのことだ