病は 気から
人の体には不必要な臓器はないが、何が大事といって心臓に勝る重要な臓器はない。それだけに心臓の異変は人を大きな不安に陥れる。
システムエンジニアのSさん(41)は、一種の“病気不安症”。ちょっと下痢が続くと大腸がん、背中が痛いと 膵臓(すいぞう)がん―と、何かと重大疾患を思い浮かべては一人不安にさいなまれるタイプの人だ。
そんなSさんが最近気にしていたのが心臓病だ。
激しい運動をしたわけでもないのに動悸がするというのがその理由。妻は「気のせい」と取り合わなかったが、気がつくと心拍が激しく鼓動を打っており、深夜などは心臓の鼓動が耳から聴こえるような気がするほど強い動悸を感じるようになっていた。
そんなことが2週間ほども続き、さすがの妻も「そんなに気になるなら一度病院に行ったら?」と勧めるようになった。当然そのころにはSさんの頭の中は狭心症や不整脈などの不穏な病名でパンパン。夜も眠れない状態だったのだ。
病院で症状を話すと、「とりあえず検査を」ということになり、超音波検査、自転車をこいで心拍の異常の有無をみる運動負荷試験、そして24時間連続して心電図を測り続けるホルター心電計による検査も行うことになるのだが…。
横浜・鶴見区の済生会横浜市東部病院(来月30日開院)循環器科部長の村松俊哉医師が解説する。
「循環器科の外来をやっていると、初診患者の2― 3割がSさんのようなタイプ。つまり、器質的な異常はないのに、精神的な不安がストレスとなって“動悸”という症状を起こしているのです。比較的女性に多いが、男性でも神経質な人では珍しくなくおこります」
つまり、精神的なストレスが原因で、動悸が出ていたというのだが、そのメカニズムはどんなものなのか。
「人間は緊張などの精神的ストレスがかかると交感神経が活発になり、それだけでドキドキするもの。運動会の徒競走でスタートラインについたときに心臓がドキドキするのと同じです。Sさんのような人はそのドキドキが『病気じゃないか?』という不安を招き、新たなストレスを作り出し、結果的にエンドレスになっていくのです」
村松医師のいうようにSさんの検査結果は「異常なし」。あれだけ大掛かりな検査をした上でのお墨付きだけに、Sさんの安堵感はひとしおだったようで、以来動悸はピタリと止まったという。
「本来検査は病気を見つけることが目的ですが、Sさんのような人は“異常ない”ということを検査で裏付けるだけで症状が治ってしまう。別の意味で検査が役立つわけです」と村松医師。
それにしても病気を心配するるあまりに症状を作り出してしまうとは本末転倒な話。神経質もホドホドに…。(