対米黒字の拡大要因に

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 [東京 7日 ロイター] 日本の野球選手などが米大リーグに移籍した場合、移籍金は日本企業に入り、日本の対米黒字を拡大させる要因になる。ただ、国際収支でどの項目に算入するかをめぐっては議論もあり、帳簿上の取り扱いの問題点も指摘されている。
 <松坂選手10人で対米黒字の1割弱>
 米大リーグのボストン・レッドソックスは西武の松坂大輔投手との独占交渉権をポスティングシステム(入札制度)により5111万ドル(約59億円)で落札し、現在契約交渉の最中だ。またニューヨーク・ヤンキースは2600万ドル(約30億円)で阪神の井川慶投手の独占交渉権を落札するなど、高額の移籍が増えている。これらの金額が実際に西武や阪神に支払われれば両企業の収益となり、日本の対米黒字を拡大させることになる。
 10月の対米黒字は7861億9300万円。仮に、野球以外でも松坂クラスの選手が10人移籍すれば黒字額の1割弱になる計算だ。
新 こうした高額移籍が続いているにもかかわらず、こうした移籍金を国際収支でどの項目に算入するかをめぐっては議論もあり、帳簿上の取り扱いの問題点も指摘されている。
 <独占交渉権の落札金額、現状では「その他資本収支」>
 「日米間選手契約に関する協定」(2000年7月10日改訂調印発効)によれば、入札金は「最高入札額を提示し交渉権を得たアメリカ大リーグ球団が日本選手と契約に達した場合に、当該選手に対する権利を放棄する日本球団への対価として支払われる」ものだ。
 この独占交渉権落札金額の帳簿上の取り扱いについて、財務省は国際収支統計では「資本収支」のなかの「その他資本収支」に該当するとの立場だ。「その他資本収支」は「移転収支」及び「その他資産」に区分されるが、松坂投手の独占交渉権は後者の「その他資産」に含まれるとの見解を示している。
 「その他資産」には非生産非金融資産の取得・処分が計上される。具体的には、財貨・サービスの生産に用いられる「無形非生産物資産」(特許権、著作権、商標権、販売権等及びリースや譲渡可能な契約)の取得・処分が対象だ。しかし、独占交渉権の譲渡は日米選手協定上は禁じられている。
 これまでポスティングシステムで米大リーグへ移籍した日本人選手は、オリックスのイチロー(1312万5000ドル=マリナーズ)、ヤクルトの石井(1126万ドル=ドジャース)、西武の森(100万ドル=デビルレイズ)、中日の大塚(30万ドル=パドレス)等が名を連ねるが、独占交渉権の落札金額の支払いは「全て『その他資産』の売却として国際収支統計に計上してきた」(財務省幹部)という。   
 <計上項目次第で選手売買にも>     
 しかし、財務省による項目処理には疑問の余地がないわけではない。無形資産のアウトライトの売り切りというという項目に充当するとすれば、それは選手をモノとして売買することを認めることになるとの批判もある。モノとして取り扱わないのであれば、計上項目を資本収支ではなくサービス収支の「特許等使用料」の項目に入れるのが適当であるという。
 「特許等使用料」は「サービス収支」の一項目で、居住者・非居住者間の特許権、商標等の工業所有権、鉱業権、著作権などに関する権利の使用料およびライセンス契約に基づくフィルムなどの原本等の使用料の受取・支払を計上する。 
 米ボストングローブ紙は2日付で、レッドソックスのラリー・ルキーノ社長兼最高経営責任者が「代理人(スコット・ボラス氏)の手法を考えれば、契約締結は14日深夜の交渉期限ぎりぎりまでかかる」との見通しを明らかにしたとを報じた。松坂の代理人ボラス氏は6年総額で7200万ドルを要求しているとされるのに対し、レッドソックスの提示額はその6、7割前後と米メディアでは報道なら選手の値引き>  
 米球界ではポスティングシステムでキックバックの噂があると複数の米紙は伝えている。米球団が高額で交渉権を獲得し、その後入団が決まると、日本の球団が入札金の一部を米球団に返還するというものだ。もしこれがされている。 
 <落札金額キックバック事実なら、一度売り払ったものを一部買い戻すことになる。キックバック部分は相殺して支払われることを想定し、現行の経理処理を適応すると、選手の「値引き」ということになる。
 ただ、米大リーグ機構(MLB)の執行役員ジミー・リー・ソロモン氏は「(ポステイングシステムに)サイドディールは存在しない。関係者はそれが許されないと念をおされているし、皆そのルールを承知している」と否定している。
 いずれにせよ、国際収支統計のなかで「その他資本収支」のうち「その他資産」は金額が少額であることから、大きなキックバックがあれば、統計数字から推測することができるかもしれない。  
 ポスティングシステムを巡っては、金銭的問題以外にも、非公開の不透明性、フリーエージェント(FA)前の放出でのFA制度の形骸化、選手流出による日本球界の空洞化など様々な問題点が指摘されている。野球は夢を売るのであって、人を売るのではないとの批判も聞こえる。
 米大リーグのバド・セリグ・コミッショナーは11月30日、ロイターとのインタビューで、高額落札が続いている日米間のポスティングシステムについて「再考する必要があると思う」と語った。しかし、具体的な方法や時期などについては言及しなかった。 一方、大リーグ選手会最高執行責任者のジーン・オルザ氏は2日「ポステイングのプロセスには乱用と不正が入り込む余地が充分にあり、重大な欠陥がある」と指摘した。
12月7日18時21分更