ジダン「後悔はしていない」

2006年7月13日(木) 11時9分 

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 ワールドカップ(W杯)・ドイツ大会決勝のイタリア戦から3日後、イタリアのDFマルコ・マテラッツィを頭突きで倒した事件について語るため、フランスのテレビ局カナル・プリュスの番組に出演したジネディーヌ・ジダンは、子どもたちや視聴者に対して自身の“許しがたい”行為をわびた。その一方、母と姉を「とてもひどい言葉」で侮辱された後の暴力行為について、後悔しているとは口にしなかった。

 沈黙の3日間だった。この3日間、世界中がむなしい熱狂に包まれていた。賞賛され、尊敬を受けていた当代きっての名選手が、ベルリンで日曜に行われたW杯決勝戦の延長後半、世界のサッカーファンの目の前で突然爆発してしまったのはなぜか。その理由が知りたい、理解したいと大騒ぎしていた。この3日間、フランスでは大半がジダンを支持していたが、中にはその行為を非難する者もいた。一方、頭突きの“被害者”となったマテラッツィは、自身の無実を公表していた。

 水曜のカナル・プリュスの番組で、ジダンは沈黙を破り初めて口を開いた。司会者のミシェル・ドニゾ氏は、2年前の出演時にジダンが代表引退を表明して以来、再び彼をスタジオに迎えることになるとは思ってもいなかったろう。ジダンは今のところW杯最優秀選手賞を受けているが、FIFA(国際サッカー連盟)のブラッター会長がはく奪に関する決定を下すまでのタイトルかもしれない。この日の出演では、ジダンの目から見たW杯、そして“あの行為”について語ることを承諾した。

 現役最後の一戦となった決勝についてジダンは、「これまでの大一番と同じく集中していた。集中し、自分を取り戻して、自分のペースで進めることが必要だったからだ」と強調した。序盤でPKから先制点を挙げたが、あの時のふわりと浮かせたキックは初めての挑戦だったという。「(ブッフォンは)とても有能なキーパーだから、同じように蹴っても止められると思った」。

 そしてジダンは続けた。
「最後までこのペースで行けると思っていた。試合前に自分の大切な人たちに会って、これから迎える試合を存分に享受しなさいと言われたら、どんな気持ちになるだろうか」
 ジダンの大切な家族の一員である母親は、決勝前日にやや体調を崩して入院していた。だからこそジダンは全力を尽くして、マテラッツィのヘディングでイタリアに同点に追いつかれた後に追加点を挙げようとしていたのだ。サニョルの完ぺきなセンタリングから、あまりに完ぺきなヘディングを放った。だがブッフォンは片手ではじき飛ばした。ジダンはまだこのシーンをビデオで見ていない。「パスをうまく受けられたんだ。もう少しずらせばよかった」。そうすれば、すべてが変わっていただろう。だが試合は延長に入る。

 ジダンは「(イタリアの選手と)険悪な雰囲気ではなかった。小競り合いはあったけれどね。でも、試合ではいつもこんな感じだし、ましてW杯決勝ともなれば、なおさらそうだ」と延長戦の状況をこう語った。あの事件までは確かにそうだった。
 それはユニホームを引っ張られた時から始まった。ジダンは慎重に言葉を選び、こう続けた。
「僕は(マテラッツィに)シャツを引っ張るのをやめてくれと言った。もし欲しければ、試合が終わってから交換しようってね。すると彼は、とてもひどい言葉を返してきた。繰り返して、何度も。言葉は時に暴力より打撃を与えることがある。顔を殴ってやりたいほどだった。いずれにせよ、時間の問題だった。彼の言葉は僕の心の奥底を傷つけたんだ」
 ジダンが傷ついたのは、明らかに家族のことで何か言われたからだ。だがジダンは、マテラッツィが投げた暴言の内容を語ることは拒んだ。
「とても個人的なことだった。僕の母と姉に関することだ。1度でも耳にすると、その場を立ち去りたくなる。僕も実際、その場を離れようとしていたんだ。だが、同じことを2度、3度聞かされると……」

 世界中を駆け巡ったあの映像の衝撃を思うと、3度目の暴言はマテラッツィにとっても、ジダンにとっても致命的だった。
「あの場面を見ていた子どもたちに謝りたい。僕の行為は許しがたいものだ。(略)もちろん、あんなことをしてはいけない。何十億もの視聴者の皆さん、そして何百万の子どもたちがあの場面を見ていたんだから、はっきり言いたい。子どもたちに、そして教育者の皆さんにおわびします」
 自分の子どもたちの反応について尋ねられると、ジダンはあれこれ意見してくる人々に先んじて、大切な子どもたちの前で自己批判をしたとのことだ。
「僕にも子どもがいる。自分が何をしたか分かっている。やられっぱなしではいけないと言っているが、あんな暴力行為は許されるべきではない」

 心からの率直な反省の言葉は聞かれたが、その後に後悔の言葉はなかった。この点に関して、ジダンはきっぱりとこう言った。
「僕のしたことを後悔はしていない。もし後悔していると言えば、(マテラッツィの)あの暴言が正しいということになってしまう。そんなことはできない。後悔しているなんて言えない。それに、彼があんなことを言うなんて間違っている。絶対に間違っている」

 FIFAの調査については、事の次第を釈明させられることを懸念してはいるが、ジダンはこの事態をまっすぐに受けとめ、そしてこう問い返した。
「僕が現役最後の試合で、楽しいからあんな行為に及んだと思っているのだろうか。僕が言いたいのは、こういう時はいつも手を出した方がとがめられるということだ。もちろん手を出した者は罰せられるべきだ。でも挑発がなければ、それに対する反応もない。本当に罪を犯した方を罰するべきだ。それは挑発した方だ」

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[ 7月13日 11時27分 更新 ] スポーツナビ