「トリプルX」「ワイルドスピード」のロブ・コーエン監督がこの映画のために開発されたVFX技術で描かれる驚異の空中戦の映像が見所のアクション超大作。総製作費1億3500万ドル(162億円)をかけた超大作だったはずなのだが、全米では見るも無残な大惨敗を喫した。それもそのはずで、過去の遺産のようなアメリカ的単細胞映画の極みのような仕上がりとなっている。

 アメリカ海軍のテロ対策プロジェクトに加わった新しいパイロットは、人工頭脳が機体を操縦する"究極のステルス"だった---。しかし、その頭脳は自我に目覚め、任務中に暴走を始めた。核攻撃の危機に、直面する人類。3人のステルス・ファイターたちは、チームの仲間である究極のステルスを探し出し、世界の未来を守ることができるのか…。

 上にも書いたが、この映画の総製作費は1億3500万ドルであったが、全米での興行収入が3210万ドルと製作費の4分の1にも届かない大コケを喫した。この影響で、ロブ・コーエンの次回作の予定であったキアヌ・リーブス主演の超大作映画の製作が見送られるといったロブ・コーエン自身の仕事にも大きな影響を与えている。

 なぜ、この映画がここまで失敗をこいてしまったのであろうか?それはプロモーションの関係ももちろん考えられるが、やはり、内容の粗悪さがかなり影響しているのではないか、と思う。一応、フォローしておくが、映像に関しては超がつくほど一流である。これほど空中戦を華麗に見せた作品はなかったであろう。作品の大半でステルス機が空中を縦横無尽に飛ぶ姿が映されているが、映像処理技術のクオリティーの高さは折り紙つきだ。

 確かにしょっぱなからの気合いの入った見せ場の連続はそれなりに見応えがあるが、その映像だけで2時間を乗り切ろうという根性が気に入らない。ロブ・コーエンの悪い癖として、「トリプルX」「ワイルドスピード」なんかでも思ったのであるが、ストーリーの整合性など最初から無視した過剰に映像表現に頼ろうとする姿勢がある。確かにこの監督の映像の構築力はそれなりにあると思う。だが、この人ははなからストーリーを見せようとか、人を描こうという精神に欠けている。そこが見えてしまうので、私はロブ・コーエンという監督があまり好きではないのだ。

 この作品でもその悪い癖が大いに見られる。「トリプルX」「ワイルドスピード」あたりでは、ヴィン・ディーゼルという個性がいたからよかったのだが、今回はこれといった主演陣にアクセントがない。アカデミー男優のジェイミー・フォックスが出ているのは意外だが、「Ray」での名演の後では何を今更こんな映画に、という印象のほうが強い。実際のところはジェイミー・フォックスは脇役に近く、ジョシュ・ルーカスとジェシカ・ビールのほうが主役クラスの扱いとなる。ジョシュ・ルーカス、ジェシカ・ビールは新進のスターではあるが、さすがに主役としては弱いと言わざるをえない。ロブ・コーエンの映画の多くは、下ネタしか頭にないんじゃねえかという感じの能天気なキャラクターばかりが出てくるが、さすがに今回は世界の平和を守っている(はずの)テロ対策のプロジェクトの先鋭のトップガンである。こんなどう見ても頭の中が空っぽそうな連中に地球の平和を任せるなど危険すぎて嫌悪感を覚える。

 さらに、人工知能が操縦するステルス機が暴走し、それを食い止めようと3人が追尾する、たった1人の仲間を救うがために北朝鮮に着陸し、大爆破といった国際法など完全無視の無茶無茶な展開の応酬もあきれ返る。世界を救うとほざきながら、こいつらがどれだけ世界平和を乱していることか。こいつらが映画の中でしてきたことだけでも、戦争が2つ、3つ開戦してもまったく不思議ではない。確信犯的なおバカ映画なのだから、うるさいことをいうべきではないのかもしれないけども、これは映画製作上の常識や倫理の範疇から逸脱しすぎている。これだけ多くの国の領空をまたぐデリケートな題材を扱っているのだから、少なくともその点に配慮するのは最低限のつとめであろう。

 アメリカのしていることは全て正しくて、都合の悪いものは全部爆破してしまえば万事丸く収まるというようなTHE アメリカ的単細胞映画はこのご時世、もはや、過去の産物いうべきだろう。そんな悪しき因習の典型というような作品がこうも堂々と作られている。それも、162億も金をかけて売れると見込んで作ったというわけだ。こういう映画を見ていると、つくづくアメリカという国は能天気だ、と思う。

 映像の完成度は凄まじいものがあるだろう。空中戦の迫力は他の追随を許さないだろう。下ネタ連発の能天気なキャラクターも悪くないし、仲間を救うというのは悪いことでない。だが、この映画はそれ以前の最低限保持すべきの常識や倫理観というものが欠如している。この映画に出てくるような無謀な奴らのために世界平和が乱されるなどはごめんなのだ。そもそも製作陣の心掛けがなっていないと考える他ない。ロブ・コーエンには映画監督としてという以前に、何か人間的な部分で再教育が必要なのではないだろうか。