”カストラート”
ボーイソプラノを保つ為に、変声期前に去勢されたオペラ歌手の事をそう呼んだ。
つまり睾丸を切りとってしまうと、成長しても声変わりしない。
十八世紀にイタリアで盛んに行われていたと言う驚きの事実。
カストラートは貴族や王がお抱えの歌手にしたりと、珍重されていた。
主に貧しい家庭の親が、富と名声を得る為に我が子を傷つける。。
ピーク時には年間四千人もの少年が施された去勢。しかし衛生環境の悪さ、医療技術の未熟さから感染症に罹り亡くなる子も多かったらしい。
そして歌手として芽の出なかった子が悲観し、自ら命を絶ったりも。
___カストラート
少年の透明感のある繊細な声に、成人男性の声量が加わったその奇跡の歌声は、
当時のファンを熱狂させ、公演中失神する客もいたそうだ。
神に背く行為により人為的に造られたこの禁断の歌声は、時に甘く、官能的だったという。
のちに人道的な理由で、歌う為に去勢することを禁止されているので、その神秘の歌声はもう聴くことができない。
映画 「カストラート」は、中でも伝説的な歌手ファリネッリの生涯を、史実に基づいて
描いた荘厳な音楽史ドラマ。 もう25年くらい前の映画になる。
男でも女でも無い、となじられ過酷な運命に抗いつつも、歌手としての道をつき進む。
そして芸術という魔物に取り憑かれていく。
ヘンデル作曲 「涙のアリア」を歌うファリネッリは鬼気迫る迫力の中にも、哀しみに
満ち、その音楽と人生への葛藤の叫びに胸が締め付けられる。
”このねじれを壊してくれ、自由を求めさせてくれ、、。”
そう歌い上げるファリネッリ。
少年の頃に去勢された直後のシーンとオーバーラップさせたこの場面は、何回観ても涙が
出てくるのだ。
私にとって、映画や小説、ドラマでもこういった内容が一番ヤバい。
自分のなかの母性をガッとわしづかみにされてしまう。
まず主人公は哀しい生い立ち、不幸な境遇に一時は世の中に背を向けたりする。
愛に餓え、拒絶しながらも激しく求めてしまう自分の心に翻弄されるが、
すさんだ心を癒やしてくれる女神が現れ、お互い惹かれ合っていく。
そして最後に真実の愛を手に入れるのだ。
なんてドラマチックで感動的なの~!
いつもそんな物語を求めている。