なにこれ

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「え?」

 

クマオがカバンからおもむろに取り出したのは、何かのチケット。

 

え?え?え?×10ぐらいの私。

 

封筒にはチケットが2枚。情けないことに、チケットに印字してある文字が小さすぎて

 

老眼の私には見えづらかったが、ライブのチケットだ。

 

言葉も発さず、じーっとチケットを凝視している私にクマオがたまりかねて言う。

「ほら、ここ」。

 

よく見ると、ライブ会場は広島となっている。ますます意味がわからずじーっと見る。

 

「ここ」。

クマオがまた指を差す。

「え!yonige !え~!!」。

 

yonigeは、最近、私がめずらしくハマったガールズバンドだ。

 

クラッシック好きだった私は、これまでクラッシックのコンサートに行くことはあっても、

 

ライブと言えるようなものには行ったことがない。初体験になる。

 

言葉を失っている私にクマオはさらに言う。

「りこちゃん、ライブは夜の7時から。広島やで。」

「広島?」。

 

私は慌ててライブの日程を見る。5月28日火曜日となっている。

「その日は午後から半休取るからね。前と同じようにお好み焼き食べて、それから1泊して

帰って来る予定」。

「ええ~!!!!!」。

 

私はクマオに飛びついた。

「クマオさん・・・・・ごめん。ごめんね。

彼女の誕生日のことで、私があんな風に怒ったからやね。

気を使わせてごめんね。でも嬉しい」。

 

顔を上げると、クマオは言う。

「りこちゃん、りこちゃんがそんなに喜んでくれてオレも嬉しいよ」。

 

「当たり前やん。こんなことされて喜ばへん人っているわけないやん」。

そう言うと、私は涙がこぼれた。

 

全く人たらしの王者クマオ。そう思いながらも、私はたまらなくなる。

 

あんなに苦しく、毎日吐いてばかりいたあの頃が蘇る

 

「りこちゃん、休み取れる?」

「うん。取れる!いや、取れなくても頼み込んで取る!」。

私は鼻をすすりながら言う。

 

「うん。じゃあ、新幹線のチケット予約するわ」。

クマオはそう言うと、スマホでさっさと予約している。

 

 

「クマオさん、ありがとう。クマオさん、ほんとうにありがとう。

こんなプレゼント・・・」

「りこちゃん、オレが楽しみたいからやで。一緒に楽しもう」。

 

こんな夢みたいな日が私にやってくるとは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誕生日

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来月6月になると私の誕生日がある。

 

と言っても、もともとお互いわざわざ誕生日を祝うことは、ほぼなかったクマオと私。

 

私たちの事を知っている友人には、いつも不思議がられていたが、何となくそんな感じで

 

年月を過ごしてきた。

女の誕生日(過去記事です)

 

ところが、今年2月。クマオが女の誕生日を、ロマンチックな演出で祝っていたことを知り、

 

何故か激しく傷いた私。

バカげた会話(過去記事です)

 

別に「おめでとう」と言われたかったわけでも、プレゼントがほしかったわけでもなかったが、

 

クマオの変わり方がショックだったのだ。

 

クマオも本当はそんなことがしたい男だったんだ。

 

考えたら、今年のホワイトデーにもきちんとお返しをしてくれたクマオ。

 

女と付き合いだしてから、記念日やイベントにマメになっているそんなクマオの様子に

 

心が砕けてしまうのだ。

 

そして来月にやって来る私の誕生日。

 

女の誕生日の件で、私が激しく泣きじゃくったことは、クマオの記憶にも新しいはずだが、

 

今年の6月に限って、クマオはポリープの手術で入院する予定になっており、

 

ちょうど退院予定の週末は私の誕生日と重なる。

 

それでいい。ちょうどよかった。クマオに女と同じような要求をしたくない。

 

私は、どこかで期待する自分を申し訳ないと思いながら、それでもやっぱりどこか期待する

 

気持ちを払拭できずにいた。

 

火曜日の夜、いつものように夜ごはんにやって来たクマオが、突然言った。

「りこちゃん、もうすぐお誕やな」

「お誕ね。うん、そうやね」。

 

え?何?クマオから誕生日の話題とは。

 

そういうとクマオはおもむろに何かを取り出した。

「ちょっと早いけど」

「え?」

 

 

 

一日の終わりに

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「クマオさん、ありがとう」。

私は、クマオにそう言って帰りのタクシーから降りる。

 

タクシーはこのまままっすぐ数百メートル進み、今日に限ってはクマオの自宅横でクマオを

 

降ろすはずだ。明日の朝の仕事が早いというのが本当ならの話だが。

 

女ができた頃から、クマオは私だけを先に降ろし、こっそりとまた女の待つ部屋まで

 

Uターンして行くようになっていた。

 

どんなにおいしいお店で、どんなに食事やお酒を楽しんでも、その日の終わりには

 

クマオは女と会い、女を抱いて寝る。

 

たまたま女のところに行かない日があったとしても、クマオと女は電話で「おやすみ」と

 

言い合い、その日を締めくくる。この流れが完全に定着している。

 

しかし、だからこそ、女にバレないのかもしれないとも思える。

 

どんな過ごし方をしても、毎夜自分のところに帰って来る彼氏、毎夜電話をかけてくれる

 

彼氏。女は自信を持つはずだ。

 

私は、ふと思う。バレてしまえばいいのにと。

 

自信たっぷり顔の女の顔が目に浮かぶのだ。

 

 

嘘のからくり

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平日の水曜日のデート。

 

クマオは終始ご機嫌だった。参加した○○社の懇親会で何か手ごたえがあったようだった。

 

クマオの話を聞いていると、ふと思い出すことがあった。

 

そうか。○○社の懇親会は毎年この5月。確か去年、私に嘘をついてこの○○社の研修に

 

参加すると言って、女と旅行していたのもこの時期。

 

1年前、クマオは、この懇親会の後、女と待ち合せてそのままどこかに旅立ったんだ。

 

私に「○○社」と言えば、何も疑わない。それどころか手放しで応援する。

束の間の幸せ(過去記事です)

嘘の研修(過去記事です)

 

クマオはその懇親会を、その時期にありもしない研修に置き換えて、女と3泊4日の旅行に

 

出かけていたんだ。

 

全くのでっちあげの嘘ではなく、一部真実を絡ませる嘘。クマオはそういう嘘をつく。

 

今になってクマオの嘘のからくりがわかり、1年前あれほど傷ついて泣いた日のことが

 

蘇った。女がいることを百も承知していた私に、それでも嘘を重ねていたあの頃のクマオ。

 

今更何故、嘘をつくんだろうと、悔しさと悲しさとで私は一人泣いた。

 

私と繋がろうとしながら、何より私のことを警戒し、私に詮索されることを徹底的に避け、

 

女に危害が及ばないようにしていたあの頃のクマオ。

 

そんな1年前のことをぼんやり考えながら、私はクマオの話に笑顔で相槌を打つ。

 

そして今。今度は女が騙されている。

 

私はクマオの横顔をじっと見た。悪いやつだと思う。

 

でも、何だろう、もうどうでもいいと思えた。

 

 

 

 

帰宅時間あれこれ

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そして水曜日。

 

○○駅の待ち合わせ場所で落ち合う。

 

来るなりクマオは、私の手を繋いでさっさと歩く。

「りこちゃん、可愛いワンピース着てきたんや」

「うん」。

褒められて私は嬉しくなる。

 

クマオの参加した懇親会が長引き、予約のお店に入店できたのは8時半近かった。

 

クマオは入店して、席に通されるやいなや、「トイレ」と言って席を立つ。

 

なかなか戻らないクマオ。今日は早く帰らなきゃいけないのになと思いつつ、

 

ドリンクもオーダーできないで私は待っていた。

 

電話かなと隣の席を見ると、スマホは置きっぱなしにしている。

 

もしかしたら、もう一つの仕事用の携帯でクマオは女に電話をかけているのか。

 

かなり時間が経ってからクマオは戻ってきた。

 

席につき、こっそり、スーツのポケットからそのガラ携をカバンに戻しているのを

 

私は見逃さなかった。やっぱり。電話してたんだ。

 

こういう時クマオは何て言って女に電話をしているのだろうか。

 

綿密な時間の打ち合わせをしているのだろうか。

 

それとも口うるさい女をなだめるのに手間取ったのだろうか。

 

「どうしたん?」

クマオは、物思いに耽っているような顔をしていた私の顔を怪訝な顔で覗き込む。

 

「ううん。お腹すいた~」

「遅くなってごめんな。りこちゃん、今日帰る時間遅らそう」

「うん。いいけど、明日朝早いんじゃなかった?」

「大丈夫」。

 

そうか。さっきの電話でその辺りのこと打ち合わせたんだ。

 

わからなくてもいいのに、クマオがこっそりと水面下ですることが、手に取るようにわかって

 

しまう苦労性の私。

 

結局、その日は、その店を出た後、もう1軒行き、帰宅したのは日付が変わる頃。

 

結果的に女を追い払ったことになるのか。