妄想のお話です
現実世界に帰れる方だけどうぞ
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「はよー…す…?」
楽屋の扉を開けて目隠しのパーテーションを抜けるとソファーから立ち上がったと思われる雅紀が「しぃー」と人差し指を唇に当ててからその指で楽屋の奥を指した。
その先を辿ると部屋の奥、広くはない畳敷きの一角に見覚えのあるブランケットの柄が目に入った。
(電池切れ、か)
「あ、相葉さん俺も行く。分けて」
タバコ切らしてるの忘れてた、と携帯ゲーム機の電源を落としてニノも立ち上がって二人揃って出ていこうとするから思わず苦笑が漏れる。
「オジサンはあと15分は戻ってきませんからねー」
更にはついでにしては親切な置き土産をして開いたばかりの扉はまた閉じられた。
とりあえず、とソファーの隅に荷物を下ろして壁の時計の時間を確認する。
(15分、ね)
今日はまだちゃんと顔を合わせていない。
正確にはここ数日まともな会話をしていない。
ドラマの撮影も半ば過ぎ。ロケやらスタジオやら都内じゃないことも多いから帰宅は深夜を通り越してるし出ていくのも早朝だったりですっかりすれ違い生活だ。
禁欲云々なんて…それ以前の問題だ。
いつもは移動車に置いてあるクッションを枕にして壁を向いて眠っている背中は規則正しい呼吸に僅かに上下している。
そっと近づいて傍に腰を下ろす。
短い前髪は閉じている瞼を隠すことなく、長い睫毛が影を落とす様まで明瞭にする。
心配するほどの顔色ではないけれどメイク前の色の白さは少しばかり胸を傷める材料になる。
手を伸ばせば触れることのできる距離。
こうして寝顔を見つめる時間を今、得ているのは自分だ。
けれど恐らく相手はその逆を幾度となく繰り返したはずだ。
(触れたい)
(眠りを妨げたくない)
どちらの気持ちも同値だ。
(同じように思った?)
葛藤を繰り返した手を握りしめた夜を思うとき、より愛おしいと想う気持ちは生まれるのかもしれない。
「…しょーさん…?」
不意に名前を呼ばれて、声は小さいのにびくりと肩が揺れた。
「………」
無言でいると、大きく鼻で呼吸してゴロリと身体を仰向けて口角が上がるのが見て取れた。
けれど、瞼は開かないままだ。
投げ出された手が畳の上を滑って櫻井の身体に触れた。
うっすらと瞼が持ち上がってまた落ちる。
「あと何分?」
指先が彷徨っているのを視界にちらりと入れながら長針の位置を確認する。
「10分」
タイムリミットを告げるとその指先が宙に浮いて差し出された。
長い指、細いけれど大きな手のひらーーーー
瞼がゆっくり開いて意図を汲み取れと、黒い瞳が微笑んでいる。
扉一枚向こう側の喧騒が一瞬遠のく気がした。
逡巡していたのは恐らく十秒にも満たなかった筈だ。
(あ…)
「嘘。困らせてごめん」
そう告げてさっと起き上がると被っていたブランケットを押し付けられた。
「え?」
「あと5分、ギュッとしといて」
意味がわからず眉根を寄せると、困ったように笑って立ち上がり靴を履いてケータリングのポットに向かっていく。
「アイスラテでいいんでしょ?」
「え?あ、うん」
咄嗟に返事を返すと慣れた手つきで紙コップに注いで自分のホットコーヒーと両方持ってこちらに戻ってくる。
「はい」と手渡されるから左にブランケットを抱えたまま反対の手でカップを受け取った。
畳の上、珍しく並んで座ってあと僅かな時間にどうにもできないもどかしさを感じないわけではないけれど、カップに口をつけてラテの優しいほろ苦さと一緒に飲み干した。
薄い扉の向こう側、廊下をガヤガヤと賑わす声が聞こえた頃、隣から手を差し出されたから左側に抱えていたブランケットを返す。
「匂い、移してくれてありがとう」
「え?」
....
「今日は一緒に寝ようね」
「、、、っ!」
ガチャりと扉が開くのとカップとブランケットを持って立ち上がるのは同時で、それ以上の言及の余地は残されなかった。
「松潤、翔ちゃんイジメちゃだめじゃーん」
「相葉さん余計なこと言わないの」
「翔くん暑いのかー?」
三者三様の声を無視したのは言うまでもない。
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いらない補足
99.9閑話
VS収録日かな(笑)