1998年の落とし穴

1998年の落とし穴

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「おいしいね」と言ったその口で、

「結婚しよう」と彼が言った。


「おいしいね」に対して言った「そうだね」と

同じ言葉で私はプロポーズを受けた。


指輪の光る左手でフォークを持って、とっても美味しいフランス料理を食べながら、私はずっとMについて考えていた。

「美味しいものを食べた時に思い出す人が好きな人だよ」

という垢だらけの言葉がもし真ならば、私の好きな人は彼ではない、しかし私は迷う事なく彼と結婚する。後悔など無かった。

いつでも、いつまでも、私はMと最良の友人であると信じて疑わないのである。



私とMが出会ってからかれこれ7年がたつ。その間に私は2人の恋人とお別れしたものだが、恋人のいるMを私は知らない。


例えば、Mに恋人ができたらどうだろうと考えることがある。

きっと、Mは恋人ができてもしばらく私には言わないだろう。「言うまい」と思って言わないのではなく、洗濯物を干すのをふっと忘れるように、ただ忘れてて言わないのだ。

ある日一緒にコーヒーを飲んでいる時に、ふと思い出して「私、恋人ができたよ」と言う。

豆鉄砲を喰らった鳩のような顔をした私が、祝福も忘れて「え、どんな人?」と尋ねると、「あ、写真あるよ」とこともなげに言って、複数の男性が写っている写真を見せ、「この人。会社の先輩の知り合いだったの」と指差す。

私は「優しそうな人だね」と当たり障りのない事を言ったあと、少し間を置いて「どこが好きなの?」と言う。

「まだ良くわかんない。告白されたから付き合った」

「でも、結婚するんじゃないかな」とつぶやく。

そこですかさず「結婚式には呼んでね」と友達のふりをして会話は終わるんだろう。



話は変わる。

昔、彼女が仲良くしている後輩の女の子がいて、その子はTと言った。何度か3人で遊んだあとTと2人で飲んでいた時、Tが突然「私、Mさんのこと好きなんですよね」と言った。少しだけはっとして「そうなんだ」と言った。「まあ、本人には言えないですけどね」「まあそう、ね」

良いね、ともなんとも私にはいえなかった。


数ヶ月後「今でも好きなの?」とTに聞くと、

「よく、分からなくなってしまいました」

と言っていて私は少しホッとした。