娘とふたりで平日午前中のイオンモールへ入学式で着るためのスーツを買いに行った。入ってすぐ見つけたサービスカウンターでレディーススーツの売り場をたずねると、二階だと教えてくれた。

売り場で試着し、娘はカーテンを閉じたまま着替えるのに随分と時間をかけ、その間ぼくは接客でついてくれている店員にあからさまな愛想笑いで間を埋めた。

やっとカーテンが開いて、店員と娘とぼくとでいくつかのやりとりがあったが、ぼくも娘もレディーススーツのデザインや、店員が口にするブラウスにおける「カワイイ」の価値基準を持ち合わせていなかったので、提案されたそれらを素直に購入した。娘はその都度返答に困って、俯いたまま苦笑いを繰り返した。


スーツの裾を直してもらっている間、フードコートであんかけ卵うどんを食べた。すごく甘くて、娘も同意見だったよ。前回、この場所で一緒に食事をしたのはもう、随分と前のことで小学生、もしかすると幼稚園のころかもしれない。いつのまにかすごく、すごく時間が経っていて、足先からゆっくり水の中に沈んでいくような感覚がする。


出かける前は、もっと楽しめる気がしていたけれど、娘との会話はあまり続かなかったし、でも、だからといって、残念な気分だというわけではなく、それなりに清々しかったし、こういうのまたあってもいいなぁ、とも思った。そして、もう二度とないかもしれない、などと喪失感に戸惑う自分を上から覗き込むふりをした。なによりそこに妻の姿はなくて、べつにそれを不自然なことだとも感じなかった。家にいるとね、ソファーやキッチンに彼女の残像を探すんだ。ソファーに座ってテレビを眺めていれば、二階から階段を降りてくる音がして、あのドアが開くと湯たんぽを抱えた彼女が、大きくなってしまった胸に片手をそえて、いつものように決してぼくのほうに顔を向けることなく入ってくる、そんな期待と甘い気配が、いまもあの部屋には漂っている。

ねえ、だからおそろしいんだ、いつかこの感覚が消えてしまって、もう二度と、もとどおりには戻らなくなって、それがどんなものであったのかさえわからなくなって、それがあったんだという事実までもがきれいにあとかたもなくなくなってしまうよ、絶対に。


でも、ぼくも終わる頃になったら、また思い出せるような気がするんだ、あなたのことを。たぶん、いまよりもずっと鮮明で、それは抱きしめることができるくらいで。


そうだったらいいなぁ。





などと、性懲りもなくまた見当はずれで意味不明なこと書いてしまった。当然彼女は本気で嫌がってる。


「なんで、わたしのブログで勝手なことするの?ホント信じられない!これって乗っ取りじゃないの?最悪なんだけど!」


助けてあげられなくてごめんねー。