愛しき薫りを求め (動きだす時) 5 | シンイ二次小説でんべのブログ

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崔沆ら武官が先手を打ち夜討ちを
仕掛けるべく暗闇に紛れ
王宮を後にし、それから
王宮の一室に王様、王妃様
年端もいかぬ幼子が身を潜め
一夜をともに過ごしていた。
むろん王妃様の寝所には
天幕を張り巡らし、他の男児が
その寝顔を覗き見ることはない。

夜明けとともに
天幕へと王様が入られ
その周りを内官、女官が固め
その前で、背にウンスを庇い
ヨンは戸口をじっと睨み付ける。
ひとの気配に敏感なヨンのこと
蒙古軍が王宮に脚を踏み入れた途端
すぐにわかるのだが。

「ああ~緊張してきた~あの人達
大丈夫かしら・・・
怪我しなきゃいいけど」

「どうであろうか・・ウンス決して
この手を離すでないぞ」

ぎゅっと後ろ手に握られた大きな
ヨンの掌…ごつごつして
所々に剣蛸ができている。
ウンスは愛しさからそっと両手で
包み込む。そんな愛らしい仕草に
ヨンの目尻が微かに緩んでいた。

王宮大門から兵士の草笛が響く
蒙古来襲の合図であり
一室に緊張が走る。

「護軍!合図の草笛じゃ」

「はっ!」

天幕の中から高宗王の声がする
ヨンは後ろ手をぎゅっと握ると
どたばたと回廊を駆けこちらに向かう
足音が響きわたる。

「戸口から退け!!
チュホン----!」

ヨンは叫ぶ。
いまは刀を持った兵士よりも
頼りになるチュホン…そして
ウンスを預けるには相応しい相棒である

ヨンの声に反応するかのように
チュホンの耳がぴくぴくと動く。
もともと馬は耳がいい
ましてやヨンを追い天門を潜るほどの
敏感なチュホン「ヒヒーン」と
嘶くと、攻め入る蒙古軍を蹴散らし
チュホンは王宮の中を駆け巡り
戸口のそばへとたどり着く。

戸口を開けてやると、頭を下げ
チュホンが姿を見せる。

「へっ?チュホンが本当にきたの?
賢い馬よね・・・貴方の声と気配を
探して、ひょっとしてチュホンも
内功使えるのかしら・・・」

「チュホン?ウンスと天幕の中を
頼めるな?」

そう言ってヨンは、チュホンの鬣を
優しく撫でると「ぶるる」「ぶるる」
っとまるで返事をするかのように
まん丸眼がヨンを見据える。

「ウンス・・・チュホンが任せろと
言っておるようです。暫し手を離すが
廊下におるゆえ、ウンスはチュホンの
背に身を潜めて下され」

「うん、わかった・・怪我しないでね」

「ふっ…俺を誰と思うておる?」

ヨンは口の端をあげると天幕の中へ
頭を垂れ戸口へと歩を進める。
そして戸口をぴしゃりと閉めていた
血なまぐさい惨状を誰よりも
ウンスに見せたくない
そんな思いからである。

「チュホン・・・よろしくね
あの人強いから大丈夫よね?
きっとすぐに戻ってくるわよね」

ウンスがそう呟くとチュホンは
首を上下に大きくふり応えていた。





一方ヨンの世では・・・

ヨンが姿を消してから
二年の月日が流れていた。

「護軍…俺どもる回数が減りました
今度会う時は、き、きっと治ってます
だからだから早く戻ってきてください
あと少しでこの地も取り戻せます
チュンソク隊長とトクマンも
頑張ってるんです。俺も頑張ってます
髪も伸びました・・・髷は結って
ないですが・・・護軍が育てた 迂達赤
俺にはまぶしいけど、で、でも俺は
護軍の私兵だからって胸を張ったら
トクマンの奴が
羨ましいってぼやいてましたよ」

暇を見つけては丘をのぼり
石畳の前に、どさりと胡座をかくと
他愛のない事を話かけている。

もともと吃音ぎみだったテマン
それが恥ずかしく早口で話す傾向が
みられていたのだが
迂達赤の輪に加わり戦を繰り返す
うちに、ひとつひとつ言葉を噛みしめ
話せるようになっていた。
十代半ば過ぎだったテマンも、時期に
二十歳(はたち)を迎える。

「今夜はみんな宴をしています
で、でも俺飲まないから逃げ出して
きたんです、握り飯食べますか?
三つ持って来ましたから
ひとつは護軍、ひとつは医仙様
もうひとつは俺・・・
はやく戻らないと冷めてしまいます
だから・・・」


さみしいのであろうか
あとの言葉が口からついてでることは
なかった、ぐっと唇を真一文字に結び
その瞳からはぽたりぽたりと
涙が溢れていた。

「今日の握り飯・・・
なんだかしょぱいな・・・」




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