私は、国枝教授の心療内科に来ていた。

ここには、美紀の自慢の兄であり、新井教授の弟子でもある真田俊介がいた。

小野田が、揉み消した後、引っ張られるように私は連れて来られた。

「俺な。今、国枝教授にスカウトされて、心療内科の講師をやってるんだ。

元々、心療内科は俺の得意分野だしな。

君も、小野田のやり方に苛々してたところだろ。

たまには、ここで休んでくのもいいだろう」

私は溜息つきながら

「公安の教授が、いるところでですか?」

俊介は苦笑いしながら

「だが、あの方は別格だ。

人間性としても、新井教授が認めてたくらいだ。

俺はね。国枝教授の弟子でもあるんだ。

国枝教授は、素晴らしい方だよ。

ま、公安の人間ということで、厄介事に巻き込まれかねないという気持ちもわからなくはないけどな。

だが、国枝教授がいるから、この病院は上手くまわっているのさ。

神山先輩も、だからやりやすくなってるんだ。

国枝教授が、いなかったら、それこそ、全てが小野田の意のままだろうよ。

それより問題は、CIAとSISの方だ。

奴らは何をやりだすかわからないからな。

その中には敵の犬も、混じってる。

だから、情報は筒抜けだ。

FBIもな。

だから、動けず睨みあっているんだ。

君はいわばそのど真ん中にいる。

それを、考えておくといい。

内科・外科・救命にはな。

だから、一番安全なここが、俺は心が休まるよ」

というわけで私は、国枝教授と俊介さんと一緒に、コーヒーを飲んでリラックスしに来ていた。

俊介さんは、その間に心療内科の勉強を教えてくれた。

俊介さんは、まさに心療内科のエキスパートだった。

美紀をあの看護大学に入れたのは、新井教授に美紀を教えてもらえるように、俊介さんが頼んだからだそうだ。

新井教授が、病気じゃなければ最初から来るはずだった。

新井教授にとっては、その間に起こった事件は、辛かったはずだ。

自分が最初から来てれば、そんなことさせなかったのにと。

特に自慢の弟子の妹が、いるのだから、尚更だ。

だから、私達は新井教授に教わることができた。

俊介さんの七光の恩恵を私達は受けたのだ。

それだけじゃなく俊介さんは、新井教授の遺産ともいうべき資料と映像をプレゼントしてくれた。

「本当は、美紀が一人前になったら、渡すつもりだったが、君に託すよ。

期待してるよ。

恵里ちゃん」

私は頭を下げて

「ありがとうございます」

と恐縮しながら私は言った。

国枝教授は、微笑ましくその様子を見ていた。

そう、国枝教授は、公安の人間なのにどこまでもいい人なため、警戒心を忘れてしまうことがある。

潜入捜査をしている以上、いつ厄介事が、こっちに降りかかってきてもおかしくないのに、それだけ、国枝教授の潜入捜査が、上手くいってる証拠である。

そう、公安の人間だと見抜かれないこと、それが、潜入捜査の基本であり、そこから、情報収集が始まる。

そして、自然に医者をこなして、周りを信頼させる。

敏腕の潜入捜査官である証拠だ。

それに、ここに来ると一息つけるのも、国枝教授が、その空気をつくっていることに他ならない。

そして、患者達は、毎日のようにたくさんやってきていた。

これもまた、信頼の証である。

本当に凄いとしかいいようがない。

だが、言い換えれば油断できない相手でもあるということなのだ。

いつ、私が利用されるかわからないのだから、警戒心を解くわけにはいかない。

でも、俊介さんがいてくれるから安心して来ることができた。

俊介さんの存在はやはり大きい。

そして、優しくて頼もしい。

美紀が、慕うのも頷ける。