突然、四年生になる前に、一人の女が、現れた。

その女は、自分に襲いかかってきたヤクザと思われる人間を、あっという間に返り討ちにしてしまった。

そして、笑みを浮かべて私の前に現れた。

「初めまして。古波蔵恵里さん。

私の名前は小野田久美子。

よろしく」

私は驚愕しながら

「もしかして、小野田教授の関係者?」

久美子は険しい表情に変わって

「ええ、あなたの言う通り、私は小野田の姪よ。

不本意ながら、人の命を権力で判断する悪魔の姪よ」

私は久美子を見て

「どうしてあなたは、私のことを知ってるの?」

久美子は自嘲の笑みを浮かべながら

「伯父から、教えられたの。

あなたと三嶋響子の二人は、一目置く二人だから、あなた達をイギリスに連れて行けだってさ。

で、私もあなた達の看護大学の生徒になった。

学長の許可も、もうとってある。

伯父の命令じゃ逆らえないし、でも、あなた達が、イギリスに行くことは悪い話しじゃないわ。

イギリス一の大学病院の、医療を目の前で見れるんだから」

そして、私達三人はイギリスに向かった。

私達は、病院に入り学長に挨拶に行った。

学長は笑みを浮かべて久美子を見て、椅子から立ち私達の近くに行って

「久しぶりだね。久美子ちゃん。

君も大変だね。あんな伯父をもつと。

だが、イギリスに来たことは、君にとっても意義がある。

これから、医療の道に進む君にはね」

そして、私を見て

「君が古波蔵恵里ちゃんだね?」

私は表情を変えず

「はい。初めまして。

古波蔵恵里です」

学長は笑みを浮かべて

「私の名前は、ローエングラム、アレクサンダー教授と大学の同期だ。

君のことは、あいつから聞かされてる。

美紀ちゃんは、本当に残念だった」

ローエングラム学長は目を瞑った後

私も目を瞑り

「はい。美紀は十年に一人の天才です。

そして、努力も人一倍・人への思いやりも、彼女ほど尊敬できる同級生はいません」

私の手は震えていた。

ローエングラム学長は、私の頭を撫でて

「アレクサンダーの言った通りの娘だな。

まだ、君は自分を責めてるんだな?

自分がもし、一年の時から本格的に外科の勉強をしてれば、美紀を助けられたかもしれない。

そう、あの画像を見れば、慢心してる高村に、君が内科的治療をしてから、治療をすべきですと意見できた。

高村の性格なら、冷静さを取り戻して、確実なやり方で、美紀を救うことができた。

そう、考えてるんだろ?

何せ厚生労働省の次期、次官と呼ばれる人の娘だからな。

慢心というよりは、緊張しきった上に、君のような素人が、課長の命令で助手になり、高村の緊張はより高まった。

そこで高村は、君の実力を試すために、肝心のオペをする前に君の実力を試した。

素人だと思った小娘の実力は、予想を遥かに越えたものだった。

だから、高村は安心しきって、君とやれば確実に美紀を救える、そう、考えたんだ。

そう、ミスじゃなかったんだよ。

あいつは、確実に君となら救える自信があったから、内科的治療をしなかったんだ。

実際、オペは完璧だった。

高村の予想通りの時間よりも、早くオペは終わった。

そう、誰もミスはしてない。

結果は不運ではあったけどな。

だが、君はあの時、自分にもっと実力があれば、美紀を救えた、そう、思ってるんだろ?

君にはっきり言っとく。

医療にたら・ればはない。

君には、うちのエースのジャムカをつける。

ジャムカの医療を吸収して来なさい。

そして、二度と自分を責めるな。

責めてる暇があったら、優秀な外科医になれ。

いいね?」

私は辛うじて頷いた。

そして、響子を見て

「君が、三嶋教授の娘か。

新井教授から、話しは聞いてる。

まさか、美紀ちゃんの死後に、新井教授の願いが叶うとは皮肉なもんだ。

だが、君がましな表情になって良かった。

子供の頃のどこまでも、純粋な目を取り戻したようだ。

響子ちゃん、恵里ちゃんを守るのは君だ。

いいね?」

響子は神妙な表情をして

「はい。何があろうと守ります」

「響子ちゃん、君には世界一の心臓外科の権威をつける。

頑張れ」

響子は笑みを浮かべて

「はい。ありがとうございます」

実は響子は、二年前、イギリスに行った時

心臓外科の膨大な資料と映像をもらってきていた。

私と響子は、自分達の持つ資料と映像をお互いに見せあい、この一年、内科的治療も含めて勉強してきた。

そう、お互いに競いあうもの同士、互いに隠さず見せあってきた。

心臓外科の世界一の権威の名を、ロック教授といった。

彼のオペを映像の中で、一度見たが、凄い技術だと私ははっきり思った。

だが、世界一かと言われるとそうは思わない。

アレクサンダー教授のオペは、あれを遥かに凌駕してる。

私は今でも、はっきり思い出す、アレクサンダー教授のオペの第一助手は、美紀だった。

あの動きに美紀は、大学一年でありながら、当たり前のようにあの動きについていっていた。

美紀の実力は、桁外れだった。

そして、二年前、私を救ってくれた時の第一助手も美紀だった。

国谷先生が、その映像を見せてくれた。

鳥肌がたった。

あれについていく、美紀の姿が、目に焼きついて離れない。

美紀は私を助けてくれたのに、私は助けられなかった・・・・・・。

私がもし、あの時から、美紀のように死に者狂いで、勉強していたら・・・・・・。

そう思うとたまらなかった。

だけど、ローエングラム学長の仰る通り、医療にたら・ればはない。

国谷先生は自分の弟子だから、高村先生を私の前で責めてみせた。

いや、私を救うにはそれしかないと判断したのだろう。

あの国谷先生のことだ。

高村先生にも、おそらく励ましたはずだ。

あれは不運なオペだったと・・・・・・。

でも、私に実力があれば救えた。

国谷先生の神業のオペを見れば、余計にそう思う。

高村先生も、あの後、病院を辞めてる。

あの日、以来、手が震えてオペが未だにできないらしい。

国谷先生なら救えたはずだと、悩み苦しみながら・・・・・・。

だが、それを乗り越えれるかが、外科医の壁だ。

ジャムカ先生の第一助手を、いきなりやらされた。

だが、今の私ならこのレベルならついていける。

ジャムカ先生は笑みを浮かべて

「そろそろ、本気を出させてもらうよ。

古波蔵」

何とオペ中にいきなり、スピードをあげた。

私は、それに辛うじてついていった。

メチャクチャな先生だ!

私の実力を、オペ中に試すなんて。

本気で腹がたった。

その頃、響子もロック教授の第二助手をしていた。

そして、久美子は癌病棟のエースの第二助手として、オペに入っていた。

癌治療のエースのヘレンは、久美子に

「看護大学の生徒が、何で三人揃って、こんな凄いんだかな。

謎でしかない」

久美子は笑みを浮かべて

「全て国谷先生のおかげです。

国谷先生が、三人の天才の才能を引き出してくれたんです」

ヘレンは笑みを浮かべて

「なるほど。さすがとしかいいようがないな。

まったく、高村が、可哀想だな。

師匠が、偉大すぎると。

あの二人も、高村の二の舞にならなければいいがな」

久美子は、冷や汗を流した。

偉大すぎる師匠が、弟子の未来を結果的に潰してしまうこともある。

それが、外科の世界だ。

外科医の心は、真面目な人間ほど・優秀な人間ほど、実はもろかったりする。

恵里は今、試されてる。

壁を越えることが、できるかを・・・・・・。

オペは無事終わった。