世の中には正しくても、痛みを伴うという事実を知った。

小山事務次官は私を見ながら

「恵里ちゃん、覚えておいてくれ。

正しいことをしても、犠牲は伴う、それを頭に入れておいてくれ。

今回の財務省解体で、五人の人間が自殺した。

いくら正しくても、こういうことは起こる。

そう、対岸の側の人の家族には、不幸が訪れる。

改革をするというのは、そういうことを、覚悟しなければならない。

地検特捜部・会計士・国税局は、常に自分のやった結果により起こりうることを覚悟してる。

そして、厚生労働省も同じだ。

病院を監査するということは、それがきっかけで病院一つ潰れるという事態が起こりうる。

いつ、犠牲者がでてもおかしくないのさ。

会計士の上にいる金融庁も、銀行に対する金融庁検査によって、そういう事態が起こりうる。

そして、当然だが、警察も同じだ。

一つ一つの事件の真相を暴くということは、そういうことだ。

それを、忘れてはならない。

正しいことが、果して本当に正しいことなのか、そこで迷うな。

自分の信念を最後まで貫け。

それが、日本という未来に繋がる。

これから、医療に携わる者として、心中の患者が運び込まれるということもある。

今の腐りきった世の中では、人を自殺という形で殺せてしまう。

覚えておいてくれ。

君は、医療に関わる限り、人の死とそういう形で向きあなければならない。

その中で救える患者を救うのが、君の役目だ。

それが、医療の使命だ」

私は金崎の墓の場所を教えてもらい、墓に行くと美紀がいた。

美紀は一人呟いていた。

「金崎さん、あなたの策のうちの一つが、成功しました。

あの財務省を倒すことが、策の一部に過ぎないなんて、誰も思いません。

でも、人が自殺しました。

わかっていたこととはいえ、間接的な殺人をした気分です。

でも、あなたは全て計算通りだったんでしょうね。

正しいということが、起こす悲劇をあなたは私に、今回の件で教えた。

違いますか?

全てあなたの思惑通りというわけですか。

さすがは、霞ヶ関の狸と言われるだけはあります。

でも、敵はあなたを殺すのが遅すぎた。

でも、あなたのライバルであるあの厄介な宮藤は健在です。

あの宮藤のことですから、あなたの置き土産であることも、気づいてるはずです。

でも、奴にとっても財務省の存在は煙たかったから、ここまで完璧にできたんだと思います。

恐ろしい男ですよ。

自分の存在すら、誰にも見せずにやってのけるんですから。

でも、あの恐ろしい宮藤も、所詮は犬に過ぎない。

どこまでいけば黒幕にまで、辿り着けるのか、でも、必ず辿り着いて見せます。

まずは、新井教授を殺すよう示唆した可能性が、最も高い宮藤の息の根を止めてみせます」

と呟いた後、手を合わせた。

私は美紀の肩に手をおいた。

美紀は驚愕して

「聞いてたんだね。恵里」

私はガックリしながら

「小山事務次官から聞いたよ。

新井教授殺しの黒幕が、宮藤の可能性が高いけど、もっと上の存在が関わってるかもしれないって」

美紀は涙を流しながら

「そっか。所詮この世は弱肉強食か。

辛いね。

自殺者が、五人も出ちゃった。

常に世の中のために、戦ってる人は、その苦悩と戦ってる。

私達も忘れちゃいけないね。

一生、この気持ちを・・・・・・」

私もガックリしながら涙を流して

「そうだね。本当にそう思う。

犠牲者のためにも、この国を良くするために戦わなければいけないね」

「その通りだ」

と一人の男が現れた。

美紀は彼を見て

「新井教授の孫の新井一樹さんですね?」

新井は笑みを浮かべて

「ああ、そうだ。

真田美紀さん。まさか、こんなところで会うとは思わなかったよ。

そして、小山事務次官に一目置かれてる古波蔵恵里さんか。

初めまして。新井一樹です。

よろしく」

私達は握手した。