美紀の前にも意外な人物が見舞いやってきた。

その名前は、あの高倉だ。

「美紀ちゃんには、悪いが私がオペをしよう。」

それは丁重に美紀は、断った。

「どうして高倉先生は、そんなことを?

優秀な執刀医も助手も決まってる状態で。」

「国の未来のためだ。

君のような存在が、今の医学を変えるであろう人物の未来をこの手で救いたいからだ。」

美紀は、笑顔で答えた。

美紀は、はっきり答えた。

「わたしは、高村先生と恵里をこころから信頼しています。

ですから、担当を変える気はありません。」

断って高倉が出ていった後、俊介がやってきて話しが始まった。

「美紀、今だからこそ思うよ。

こんな腕にならなければお前をこの手で救い出してやれたのにな。

だが、これは可愛い妹を救った勲章みたいなものだとおれは思ってる。

あとは、高村と恵里ちゃんに託すよ。

美紀に、改めて言っとくよ。

俺は、お前を憎んだことなんて一度もない。

兄として妹を、救うのは当然の話だ。

お前は、俺の分まで優秀な医者になるつもりなんだろうが、俺のためじゃなくお前を待ってる患者のために医者になれ。

それが、兄としての願いだ。


「わかったよ。お兄ちゃん。」

二人は、この時初めてわかりあえた気がした。

美紀は、ずっとあの事件以来苦しんでいたのだから。

それだけに今の会話は、重要だった。

俊介も、結果的に可愛い妹を苦しませていたのだがら、ようやく解決させたことが嬉しかった。

そして、ついに恵里と話すときがきた。

「恵里はっきり言っとくね。

もし、私が今回のオペで助からなかったとしたら、あなたにはどうしてもしてほしいことがあるの。

まずは、私の分まで代わりに医者になること。

そして、今まで裏世界について集めたデータが・・・にある。もし、わたしが死んだら、十年後そこのデータをもとに裏世界を潰してほしい。

やり方は、あなたに任せる。」

真剣な表情でいう美紀の姿に、恵里は何もいえなかった。

そして、そんなある日、病院で事件が起こった。

銃を持った男が、病院にたちこもったのだ。

恵里は、思った。

この男に殺意すら、覚えた。

美紀の大事なオペの前日に、こんな事件が起こったのだから。

事件が、解決した後、恵里は怪我人の治療に追われて美紀と話すどころの話しではなくなってしまったのだ。

それでもようやく、美紀と二人きりで話せる時がきた。

恵里は、単刀直入に聞いた。

「美紀は、黒幕が誰か知ってるの?」

美紀は真剣な表情で

「残念だけど黒幕は、わからないんだ。

でもナンバー2は、分かる。

高尾智彦という男よ。

調べればわかってくると思うけど決してあせらないでね。」

「どうして十年後なの?」

「それは、大きな策が発動されるからって覚えておいて。」

美紀は、散々悩みをかかえてここまできたということがよくわかった。

「それと、万一私が、助からなくても恵里が助手という形で関わってくれるだけで私は救われるよ。

恵里、万一私が助からなかった時のために言っとくけど、あなたにはどうしても医者になってもらいたいんだ。
そして、私の分まで多くの患者を救ってほしいんだ。

私は、心から恵里の優しさや皆が慕うような強さ・そして、人の事を何よりも考えているところとか、私は心から尊敬してるんだ。

自分の本心を、ここまで話せる人というのもいなかったしね。

でも私は、同時に心配になる。

恵里は、いつかあらゆることがたまりにたまって爆発しちゃうんじゃないかって。

だから、自分のことも考えてね。

それと例え私が、死んでも自分を決して責めないで。

私のことで恵里が、苦しんでると考えただけで私の方が、辛くなるってことを親友としてわかってね。」

恵里は、涙を流しながら

「美紀、そんなこと言わないでよ!

絶対に、あなたは助かる!
あなたは、それだけ考えて。

それにね。美紀がいなくなったら私の方が困るのよ!

美紀は、医療に関する私にとっての考えを180°変えてくれた人だから。

どこまでも、理想の医者を目指して走ってく姿にどれだけ私は、変わったかわからないよ。

美紀は、私の目標なんだからね。

ちゃんとそれを、わかってほしいよ。

それに私は、美紀が思っているほど強くない。

私、今まで目標とする人とかそういう人っていなかったから、だから私は美紀のような人に会えて本当に嬉しかったんだ。」

美紀は、涙でいっぱいになっていた。

ちっぽけな自分に心から、尊敬する恵里にそんなことを言われるとは思ってもいなかったためなおのことである。

自分の存在で、恵里にいい方向に影響を及ぼしたのだとしたら、人をプラスに導く存在、それは何よりも美紀が憧れていたことだったからなおのこと嬉しかった。

「私もだよ。恵里。あなたに会えて良かった。」

二人そろって、涙を流しながら語った。

二人の魂の会話だった。